2 産業見本市の開催権を譲り受ける際に競業避止義務を課すこと

 産業見本市の開催者が競争事業者から開催権を譲り受けることは直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,譲渡側の開催を制限することは,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例

1 相談者

 A社及びB協会(産業見本市の企画・運営事業を行う事業者及び団体)

2 相談の要旨

(1) A社は,電子部品Xに係る産業見本市(以下「産業見本市X」という。)の企画・運営事業を営んでおり,毎年1月(東京),7月(仙台),10月(大阪)に産業見本市Xを開催している。
 B協会は,電子部品Xのメーカーを会員とする団体であり,毎年4月(東京)に産業見本市Xを開催している(以下,B協会が開催する産業見本市Xを「産業見本市B」という。)。産業見本市Bには,B協会会員のほか,会員以外のメーカーも多数参加している。
 産業見本市Xの企画・運営サービスを行う事業者及び団体(以下「開催者」という。)は20社存在しており,見本市に出展する事業者数をベースにシェアを算定すると,A社が50%,B協会が5%となる。

(2) 産業見本市Xでは,電子部品Xのメーカー等が出展者として商品の展示を行い,卸売業者,小売業者等が来場者となりメーカー等と商談を行う。通常,一般消費者は参加しない。

 開催者は,産業見本市開催のための会場の手配,広告宣伝,来場者の募集などの一切の手配を行い,出展者から出展料を徴収することで収入を得ることになる。

(3) 産業見本市Xの開催には許認可等は必要なく,自由に開催できることから,近年,新規の産業見本市Xが多く開催されている。
 このような中,産業見本市Bへの出展者数,来場者数は減少傾向にあり,B協会は自らが開催者となって産業見本市Bの開催を続けることは困難と判断した。 しかしながら,産業見本市Bは電子部品Xの見本市として知名度があり,会員事業者の商談の場としてもその知名度が効果的であることから,産業見本市Bの名称は残したいと考え,「産業見本市B」という名称で開催する権利(以下「開催権」という。)を,産業見本市の企画・運営を専門に行うA社に譲ることとしたいが,独占禁止法上問題ないか。
 また,A社は,産業見本市Bの開催権を譲り受ける場合,譲り受け後の産業見本市Bにおける出展者数,来場者数の確保を目的として,B協会に対して,産業見本市Bの開催時期及び前後3ヶ月間は,産業見本市Xを開催しないように義務付けることを検討しているが,独占禁止法上問題ないか。
 なお,当該義務付けにおいては,地域等を限定することなく開催を禁止するとしている。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 産業見本市Xの開催者は,出展者から出展料を徴収し,産業見本市Xの企画・運営サービスを提供している。出展者である電子部品Xのメーカーは,多数の産業見本市Xの開催者の中から,出展料やサービスの内容に応じて出展する見本市を決定している。したがって,出展者の獲得に当たり開催者は競争関係にあると認められるところ,本件では,産業見本市Xの企画・運営サービスにおける競争に及ぼす影響について検討する。

(2) 一般に,有力な事業者が他の事業者の事業に係る権利等を集積することにより,他の事業者の事業活動を支配又は排除することによって,市場支配力が形成・強化され,競争が実質的に制限される場合には,私的独占(独占禁止法第3条)として問題となるおそれがある。
 また,事業者が取引の相手方に対して,自己と競合する製品やサービスの供給を制限するなど,相手方の事業活動を拘束する条件を付けて取引を行うことにより,公正な競争を阻害する場合には,不公正な取引方法(第13 項・拘束条件付取引)として問題となるおそれがある。

(3) A社は産業見本市Xの企画・運営事業において有力な事業者であり,産業見本市Bの開催権を譲り受けた場合には合算市場シェアが55%となるものの,競争業者が18社と多数存在し,かつ,近年,新規の産業見本市Xが多く開催されてきていることなどを考慮すれば,本件譲渡によって,A社の市場支配力が形成・強化され,競争が実質的に制限されるとは認めにくく,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

(4) 他方,A社がB協会に対し,産業見本市Bという名称の使用を制限することには合理性が認められるが,名称の使用制限にとどまらず,一定期間産業見本市Xの開催自体を禁止することは,将来的にB協会が競争単位としての機能を発揮する可能性を閉ざすものである。A社の市場での地位を鑑みれば,地域等を限定することなくB協会による産業見本市Xの開催を一切禁止した場合,市場における公正な競争が阻害されるおそれがあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。

4 回答の要旨

 A社がB協会から産業見本市Bの開催権を譲り受けることについては,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,A社の市場での地位を鑑みれば,B協会に対して,地域等を限定することなく産業見本市Xの開催を一切禁止することは,独占禁止法上問題となるおそれがある。

ページトップへ