6 特許・ノウハウライセンス契約に伴う使用装置の制限

 電子部品メーカーが,自ら開発した電子部品の製造方法に関する製法特許及び技術ノウハウについて,競合する電子部品メーカーにライセンスする際,当該製法特許に基づく電子部品の製造に特定事業者の製造する製造装置の使用を義務付けることが,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 A社(電子部品Xのメーカー)

2 相談の要旨

(1) A社は,デジタル家電機器の主要な構成部品である電子部品Xのメーカーであり,主な取引先は,国内,海外の大手デジタル家電機器メーカーである。A社の電子部品Xの販売市場におけるシェアは15%(5位)である。

(2) A社は,電子部品Xの新しい製造方法(以下「新工法」という。)の単独開発に成功し,その技術ノウハウ及び特許権を保有している。
 ただし,開発した新工法を実施するには,別途,専用の製造装置の開発が必要となる。しかし,A社は当該製造装置を単独では開発できないため,製造装置メーカーであるB社と共同開発することとし,製造装置の開発に必要な当該新工法の技術ノウハウを開示した上で,共同開発を行った。A社及びB社の共同開発は成功し,新工法向けの製造装置を開発した。
 なお,当該製造装置については特許を出願中である。現時点では当該製造装置の競合品は存在していないものの,技術開発が活発な分野であり,今後短期間で代替装置の開発がなされる可能性がある。

(3) A社としては,今後,新工法の特許及び技術ノウハウを他の競合電子部品メーカーにもライセンスすることを考えているが,ライセンス先のメーカーが,開示された技術ノウハウをもとに第三者と共同で製造装置を開発する場合,当該第三者に新工法のノウハウが漏洩するおそれがある。そこでA社は,新工法に係るノウハウの秘密性を保持するとともに,共同開発に要した費用を回収するために,新工法のライセンスに当たり,新工法に使用する製造装置をB社が製造するものに限定することとしたいが,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 本件は,A社が新工法のライセンスに際し,使用する製造装置の取引先を制限するものであることから,本件では,製造装置の技術及び製品のそれぞれにおける競争に及ぼす影響について検討する。

(2) 一般に,特許・ノウハウライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対して,当該特許等の実施に必要となる製造装置等の購入先を制限することは,新たな競合品の開発が阻害され,又は製造装置の競合品の販路が閉ざされるなど,技術市場及び製品市場における競争が阻害される場合には,不公正な取引方法(第13項・拘束条件付取引)として問題となるおそれがある。
 ただし,契約対象ノウハウの秘密性を保持するために必要な範囲内で,ライセンシーの製造装置等の購入先を制限することは,原則として不公正な取引方法に該当しない。

 【参考】
 特許・ノウハウライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対して,原材料,部品等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者から購入する義務を課すことは,ライセンシーの原材料,部品等の購入先の選択の自由が制限されること,又は原材料,部品等その他の製造業者若しくは販売業者が代替的な取引先若しくはそれとの取引の機会を容易に確保することができなくなることにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる。
 ただし,契約対象のノウハウの秘密性を保持するために必要な範囲内で,ライセンシーの原材料,部品等の購入先を制限することは原則として不公正な取引方法に該当しない。
[特許ノウハウガイドライン 第4-4(4) 原材料,部品等の購入先の制限]

(3) 本件製造装置の取引先制限は,新工法のライセンスに際し,ノウハウの漏洩を防止するために課すものであり,当該制限が課されることによって新工法のライセンスが促進されるなど,基本的には電子部品Xに係る市場における競争促進的な効果が期待されるものである。また,本件製造装置は共同開発の成果であり,当該制限は共同開発に係る費用を回収する目的で課されていることから,一定の合理性が認められる。
 したがって,本件制限が課されることにより,上記市場における公正な競争を阻害するおそれがあるものとは認められない。

(4) ただし,今後,新工法が普及し,当該新工法向けの製造装置の需要が拡大する等によって,新工法に係るノウハウが公知になった後においてまで,又は共同開発に要した費用を回収し終えた後においてまで,このような制限を課すことは,B社の提供する製品と機能・効用が類似又はより優れた製品の開発が阻害され,上記市場における公正な競争が阻害されるおそれが生じることも懸念される。

(5) また,本件は新工法に係る制限についての判断であり,従来の工法について本件と同様の制限を課す場合には,市場の状況等によっては,独占禁止法上問題となるおそれがある。

4 回答の要旨

 A社が本件新工法のライセンスに際して,製造装置の購入先を制限することについては,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,今後,本件新工法が普及しノウハウが公知になった後においてまで,又は共同開発に要した費用を回収し終えた後においてまで,このような制限を課すことは独占禁止法上問題となるおそれがある。
 また,本件は新工法に係る制限についての判断であり,従来の工法について本件と同様の制限を課す場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある。

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