7 競合する電子部品メーカー間の部品の供給

 電子部品メーカーが,急激な需要増加に対応するため,自社による生産に加えて競争事業者から部品の供給を受けることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 A社及びB社(共に電子部品メーカー)

2 相談の要旨

(1) A社及びB社は,デジタル家電機器乙に組み込まれる電子部品甲の製造・販売を行うメーカーである。
 電子部品甲は,部品Xと部品Yを組み合わせたものであり,両部品の仕様を合わせる必要があることから,A社及びB社は,これまで両部品とも自社で製造し,両部品を組み合わせた電子部品甲として販売している。
 電子部品甲の販売市場におけるシェアは,A社及びB社ともに20%であり,競争事業者としては,シェア25%ずつを有するC社及びD社と,シェア10%を有するE社が存在する。

(2) 電子部品甲は,最終製品であるデジタル家電機器乙の販売増加に伴い,急激な需要増加傾向にある。そのため,A社は,自社に生産余力のない部品Xについてのみ,競争事業者であるB社から供給を受け,自社の部品Yと組み合わせた上で,電子部品甲として販売することを計画しているが,独占禁止法上問題ないか。
 なお,両社は,販売活動は従来どおり独自に行い,互いに販売価格や取引先などには一切関与しない。また,他社から部品を購入したり,他社と部品の供給契約を結ぶことを制限するものではない。

(3) A社が販売する電子部品甲に用いる部品Xのうち,B社から供給を受ける数量の割合は15%である。また,A社の電子部品甲の販売価格に占める部品Xの購入価格の割合は60%である。
 なお,本件部品の供給が実行された後は,B社における部品Xの供給余力はほとんどなくなる。

(4) 電子部品甲の販売先は,大手デジタル家電機器メーカーである。電子部品甲が使用されるデジタル家電機器乙においては,同等の機能を有するデジタル家電機器丙や丁との間で,性能や価格等における熾烈な競争が行われており,デジタル家電機器乙の価格は下落傾向にある。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 本件の対象製品は,部品Xのみであるが,部品Xが単体で販売されることはなく,部品Yと組み合わせた電子部品甲として販売されることから,本件では,電子部品甲の販売における競争に及ぼす影響について検討する。

(2) 一般に,競争事業者間における部品の供給が直ちに独占禁止法上問題となるものではない。ただし,当事者間で製造に係る情報が共有されることで価格や供給量,販売先の調整がなされたり,一方当事者と競争関係にある事業者との間の部品の購入や供給契約の締結等について他方当事者に制限を課すなどして,当該製品の販売市場における競争が減殺される場合には,不当な取引制限(独占禁止法第3条)又は不公正な取引方法(第13項・拘束条件付取引)として問題となるおそれがある。

(3)電子部品甲の販売市場は,当事会社を含めた5社のみが供給する寡占市場である。このような状況で,本件部品の供給が実施されることにより,A社及びB社の間で部品Xに係る情報が共有され,さらにB社における部品Xの供給能力が限界に達するおそれもあることから,両社間において価格や生産数量の調整を容易にすることが懸念される。

(4) 本件部品の供給により,A社の電子部品甲の販売価格のうち,B社から供給を受ける部品Xの購入価格が占める割合は60%にのぼることから,両社間において電子部品甲の販売価格の調整等を容易にすることも懸念される。しかし,A社が販売する電子部品甲に用いる部品Xのうち,B社から供給を受ける数量の割合は15%にとどまり,残りの部分については何らB社からの影響を受けるものではない。
 また,電子部品甲は,最終製品であるデジタル家電機器乙に用いられるところ,デジタル家電機器乙においては,同等の機能を有するデジタル家電機器丙や丁との間で,性能や価格等における熾烈な競争が行われている状況にある。
 さらに,A社及びB社は,互いに販売価格や取引先などには一切関与せず,また他社から部品を購入したり,他社との部品の供給契約を結ぶことについて制限を課すものではない。

(5) また,本件部品の供給により,A社は自社の追加投資を要せずに供給量を増加させることができ,B社においても自社工場の稼働率の向上が見込めることから,両社のコスト削減効果が,最終的にデジタル家電機器乙の価格の低下につながるなど,消費者利益の向上も期待される。

(6) 以上の状況を勘案すれば,本件部品の供給によって電子部品甲の販売に係る公正な競争が阻害されるおそれがあるとは認められず,直ちに独占禁止法上問題になるものではない。
 ただし,本件部品の供給を契機として,両社間で電子部品甲の生産数量の調整等の競争回避的な行為がなされる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある。

4 回答の要旨

 A社がB社から,部品Xの供給を受けることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 ただし,本件部品の供給を契機として,両社間で競争回避的な行為がなされる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある。

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