ライセンシー(実施権者)がライセンサー(特許権者)に対し,ライセンス技術に関し,研究開発を行わないよう制限することは,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例

1 相談者

 X社(化学メーカー)

2 相談の要旨

 食品メーカーであるY社は,化合物Aを開発し,その特許権を保有している。
 化学メーカーであるX社は,化合物Aが商品価値を有すると考えられることから,化合物Aについて,Y社との間で,Y社自身もライセンス地域内で権利を実施しないという独占的ライセンス契約を締結する予定である。
 さらに,X社は,化合物Aに係る一切の研究開発を自社しかできないようにするため,Y社に対し,Y社は化合物Aに係る研究開発を10年間行わないという内容を当該契約に盛り込むよう要求することを検討している。
 なお,Y社が,X社のこのような研究開発の制限についての要求に応じるかどうかは不明である。

 このように,ライセンシー(実施権者)X社がライセンサー(特許権者)Y社に対し,ライセンス技術に関し,研究開発を行わないよう制限することは,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) ライセンサーがライセンシーに対し,ライセンス技術又はその競争技術に関し,ライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを禁止するなど,ライセンシーの自由な研究開発活動を制限する行為は,一般に研究開発をめぐる競争への影響を通じて将来の技術市場又は製品市場における競争を減殺するおそれがあり,公正競争阻害性を有する。したがって,このような制限は原則として不公正な取引方法に該当する(一般指定第13項・拘束条件付取引)。

〔知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針 第4-5(7)〕

 技術の利用に係る制限行為による競争減殺効果は,制限の内容及び態様,当該技術の用途や有用性のほか,当事者間の競争関係の有無,当事者の占める地位,対象市場全体の状況,制限を課すことの合理的理由の有無,研究開発意欲及びライセンス意欲への影響を総合的に勘案し,判断する。

〔同 第2-3〕

 なお,研究開発活動の制限に関しては,制限行為の対象となる技術を用いて事業活動を行っている事業者の製品市場におけるシェア(製品シェア)の合計が20パーセント以下である場合に原則として競争減殺効果が軽微であるとされるいわゆる安全領域(セーフハーバー)の考え方は適用されない。

〔同 第2-5〕

(2) 本件は,ライセンサーがライセンシーに対してライセンス技術等に関する研究開発活動を制限するのではなく,ライセンサー(Y社)から独占的ライセンスを受けようとするライセンシー(X社)が,Y社に化合物Aに係る研究開発を10年間行わないことを契約上規定しようとするものである。
 現時点でY社がX社の要求に同意し,自ら研究開発活動を行わないこととする場合であっても,今後10年間にわたって研究開発活動に制限が加わるという点においては,ライセンサーがライセンシーの研究開発活動を制限する場合(上記(1))と同様に,研究開発をめぐる競争への影響を通じて将来の技術市場又は製品市場における競争を減殺するおそれがある。
 よって,X社が,Y社が化合物Aに係る研究開発活動を10年間行わないことを条件として同社と取引を行うことは,独占禁止法上問題となるおそれがある(一般指定第13項・拘束条件付取引)。

4 回答の要旨

 X社が,Y社が化合物Aに係る研究開発活動を10年間行わないことを条件として同社と取引を行うことは,独占禁止法上問題となるおそれがある。

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