8 事業者団体による取引先事業者に対する適正取引の要請文書の発出等

 自動車・産業用機械の部材・部品メーカーの団体が,会員の取引先に対して,適正取引の推進を要請する文書等を配布すること,また,取引条件明確化のためにモデル覚書を作成することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X協会(自動車・産業用機械の部材・部品メーカーの団体)

2 相談の要旨

(1) X協会は,自動車・産業用機械のメーカーから部材・部品の製造発注を受けて,これを製造する事業者を会員とする団体であり,自動車・産業用機械のメーカーに当該部材・部品を供給している事業者の約7割が加盟している。
 X協会の会員事業者の約9割は中小事業者である。

(2) この部材・部品の総取引高の約7割は自動車産業向けが占めており,昨今の世界経済の急速な悪化を反映して,自動車メーカー等からの発注が減少し,さらに,値下げ要請も受けていることから,会員事業者の経営は非常に厳しい状況におかれている。
 X協会では,こうした景気悪化のしわ寄せは,立場の弱い会員事業者のような下請事業者に集中しやすいため,下請取引適正化の必要性を訴えていく必要があると考え,適正取引の推進を要請する文書を作成し,これを会員事業者を通じて,自動車メーカー等に配布することを検討している。
 この要請文書を利用するかどうかは,会員事業者の任意である。

(3) また,この部材・部品は,一般に発注者である自動車メーカー等から部材・部品の模型の貸与を受けて,これに基づき製造されており,製造終了後は,原則,この模型は発注者に返却することになっている。しかし,長期にわたる取引では,当面使用しない模型や耐用年数・回数を超過した模型を下請事業者である会員事業者が無償で保管しているケースも多く,この部材・部品が多品種であるため模型の数も非常に多いことから,この模型保管費用が,会員事業者にとって重い負担になっている。
 そこで,X協会では,模型の保管が会員事業者の負担になっていることを訴え,その取扱いについての理解を要請する文書を作成し,これを会員事業者を通じて,自動車メーカー等に配布することを検討している。
 これに加えX協会は,会員事業者と事業者メーカー等との間で模型の適正な取扱いがなされることを目的とした,模型の取扱いに関するモデル覚書を作成し,これを上記要請文書とともに,会員事業者を通じて,自動車メーカー等に提示することも検討している。
 この要請文書及びモデル覚書を利用するかどうかは,会員事業者の任意である。
 このようなX協会の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 適正取引の推進を要請する文書については,下請事業者である会員事業者の窮状を訴え,適正な下請取引についての理解を求める内容の文書であって,会員事業者の任意の判断において取引先に配布されるものである限り,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

(2) 模型の取扱いに関する文書については,模型の保管が会員事業者の負担になっていることを訴え,下請事業者である会員事業者が模型を無償保管しているという取引慣行の改善について理解を求める内容の文書であって,会員事業者の任意の判断において取引先に配布されるものである限り,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

(3) 取引条件明確化のための模型の取扱いに関するモデル覚書については,取引条件自体の内容(具体的な価格,支払条件,納期等)に関与せず,特定の事業者に対して差別的な内容ではなく,その使用が会員事業者の判断にゆだねられている限り,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 〔事業者団体ガイドライン 8-7(取引条件明確化のための活動)〕
 また,この配布については,会員事業者の任意の判断において取引先に配布されるものである限り,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X協会の本件取組は,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

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