事業者団体が,音楽著作権情報の集約化及び集中処理を行うこと自体は,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X機構(音楽著作権情報の集約化及び集中処理を行う団体)
2 相談の要旨
(1) 音楽のインタラクティブ配信(インターネット等を利用した配信をいう。)においては,近年,配信事業者が増加するとともに,配信事業者の取扱い楽曲数が急増してきている。
配信事業者は,楽曲の著作権を管理する事業者(以下「著作権管理事業者」という。)と,それぞれ,インタラクティブ配信における楽曲の使用に関する契約を締結し,使用料等を定めている。
(2) 平成13年に著作権等管理事業法が施行され,音楽著作権の管理事業への新規参入が認められたことから,現在,複数の著作権管理事業者が存在する。
現状では,配信事業者は,使用する楽曲のID,著作権管理者等の著作権情報を取得するために各著作権管理事業者がそれぞれ構築しているデータベースにアクセスして各楽曲ごとにこれを確認しており,また,定期的に利用曲目等の報告を関係する著作権管理事業者すべてにそれぞれ行わなければならない。
配信事業者の取扱い楽曲が急増している中で,こうした著作権情報処理作業の負担が大きなものとなっており,配信事業者のコストを増大させる要因になっている。また,取扱い楽曲が急増し,著作権情報処理作業が増大しているため,十分な確認作業等ができず,使用料の支払いトラブルや権利侵害の問題が生じている例もある。さらに,著作権管理事業者にとってもデータベースの構築・運用等のコストが負担となっている。
(3) こうした状況を踏まえ,新たに,インタラクティブ配信における著作権情報の集中処理を行う組織として,配信事業者,著作権管理事業者等を構成員とするX機構を設立することとし,X機構は,
ア 著作権管理事業者の協力を得,著作権管理事業者ごとに構築されている著作権情報のデータベースを集約して統一データベースを構築・運用し,このデータベースを配信事業者が共同で利用できるようにするという著作権情報の集約化
イ 配信事業者から利用曲目データの提出を受け,X機構が配信事業者に代わって利用曲目報告に必要な事務を行い,関係する著作権管理事業者にそれぞれ利用曲目報告を行うという利用曲目報告事務の集中処理という事業の実施を予定している。
これにより,配信事業者及び著作権管理事業者の事務効率化,コスト軽減,また,正確な著作権情報の把握,利用曲目報告等による使用料の支払いトラブル,権利侵害リスクの低減が期待できるものである。
なお,X機構は,各配信事業者の営業機密である配信情報等が集まってくることから,情報の漏洩や目的外利用といったことが生じないよう情報管理は厳格に行うとしている。
(4) X機構は,主に配信事業者の事業効率化を図ることを目的としてこの事業を実施するものであり,これにより利益を得ようとするものではない。
X機構が行うこの事業を利用するかどうかは,配信事業者及び著作権管理事業者の任意であり,この事業を利用する者は,X機構の会員となって事業実施に要する応分の費用を負担する。
また,X機構は,配信事業者と著作権管理事業者との個別取引の内容には何ら関与しない。
このようなX機構の事業は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1) 事業者団体が行う共同事業の内容が,事業者の主たる事業に付随する運送や保管に係るものであるときには,それ自体としては,本来,対象となる商品の価格,数量や取引先に影響を与えるものではなく,共同販売,共同購買,共同生産に比べて独占禁止法上問題となる可能性は低いが,共同事業の実施を通じて,構成事業者に係る対象商品の価格又は数量,顧客・販路等の競争手段を制限することにつながらないよう留意する必要がある。
〔事業者団体ガイドライン 11(2)ア 共同事業の内容〕
(2) このX機構の事業自体については,
ア 著作権情報の集約化と配信事業者の利用曲目報告事務の集中処理に限定されており,X機構が楽曲の利用許諾及び楽曲使用料の収受までも集約して行うものではない
イ 価格情報等の重要な競争手段に具体的に関係する内容の情報まで集約化するものではなく,情報の集約化の対象と範囲からみて競争に影響を与えるものではない
ウ これに参加するかどうかは配信事業者及び著作権管理事業者の任意であることから,このX機構の事業を通じて,配信事業者及び著作権管理事業者が提供するサービスの価格又は数量,顧客・販路等の競争手段が制限されるものとは考えられず,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
また,このX機構の事業は,これに参加することにより,配信事業者及び著作権管理事業者の事業コストが軽減され,新規参入が容易になるなど,音楽配信事業及び音楽著作権管理事業における競争の促進にもつながるものと考えられる。
(3) しかしながら,X機構が,この事業の利用を合理的な理由なく制限したり,利用に当たって合理的な理由なく事業者間で差別的な取扱いをし,配信事業者又は著作権管理事業者の数を制限する,あるいは,配信事業者又は著作権管理事業者の自由な事業活動を不当に制限することがあれば,独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第1項第3号又は第4号)。
また,X機構には配信事業者から営業機密である配信情報等が集まってくるが,X機構がこの情報を利用して,配信事業者又は著作権管理事業者の自由な事業活動を不当に制限することがあれば,独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第1項第4号)。
4 回答の要旨
X機構が実施する事業自体は,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
なお,今後,事業の実施に当たっては,X機構が,この事業の利用を合理的な理由なく制限したり,利用に当たって合理的な理由なく事業者間で差別的な取扱いをし,配信事業者又は著作権管理事業者の数を制限する,あるいは,配信事業者又は著作権管理事業者の自由な事業活動を不当に制限する場合,また,X機構に集まる配信事業者の配信情報等を利用して,配信事業者又は著作権管理事業者の自由な事業活動を不当に制限する場合には,独占禁止法上問題となるおそれがあることに留意されたい。