1 医療機器メーカーによる通信販売の禁止

 医療機器メーカーが,取引先事業者に対し,当該メーカーの医療機器のうち,通信販売では行うことのできない調整を行った上で販売することが不可欠なものについて,通信販売及び通信販売を行う事業者への販売を禁止することは,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者 X社(医療機器メーカー)

2 相談の要旨

(1) X社は,医療機器Aのメーカーである。我が国の医療機器Aの販売市場におけるX社のシェアは5パーセント(第7位)である。

(2) X社は,自社ブランドの医療機器Aを,医療機器販売店等の小売業者(以下「取引先事業者」という。)を通じて消費者に販売している。また,X社は,医療機器Aについて,メーカー希望小売価格を設定している。
 なお,通常,取引先事業者は,X社の医療機器Aのほか,複数のメーカーの医療機器Aの販売を行っている。医療機器Aは,消費者の症状によって選好するメーカーが異なるといった特徴がある。このため,消費者の中にはX社の医療機器Aを強く選好し,X社の医療機器Aを指名して購入する者も相当数いることから,取引先事業者にとって品ぞろえに加えておくことが必須のものとなっている。

(3) 医療機器Aは人体に装着して使用するものであるが,その販売方法について特段の規制はなく,店舗販売の方法だけでなく最近ではインターネット等を利用した販売(以下「通信販売」という。)の方法で消費者に販売されることも増えてきている。
 なお,店舗販売を行うX社の取引先事業者の中には,メーカー希望小売価格より相当程度低い価格で販売している者もいる。

(4) X社の医療機器Aは,特殊な機器を用いて消費者の体の状態を実際に計測し,その計測値に合わせて機器の設定等を修正した上で,消費者に対し,使用感を聞き,それに応じて更なる微修正を行うといったプロセスを経る調整を行わなければ性能が発揮できないものである。X社は,自社の医療機器Aが調整が行われないまま販売されると,性能の発揮が著しく阻害され,消費者に不利益を与え,ひいては自社の医療機器Aに対する信頼の低下につながるのではないかと懸念しており,かねてから自社の医療機器Aが通信販売の方法で販売されることには否定的であった。
 なお,X社の医療機器Aの調整は取引先事業者が行っており,消費者が自ら行うことは困難である。通常,取引先事業者は,自社で販売した医療機器Aの調整しか行わないが,消費者が他社で購入した医療機器Aについて調整を行うとする事業者も存在する。

(5) X社は,自社の医療機器Aが通信販売の方法で販売されていることはないと考えていたが,最近になって,ある通信販売業者からX社の医療機器Aを購入したという消費者から,故障ではないかとの苦情がX社にあったことから,X社は,自社の医療機器Aが通信販売の方法で販売されていることを認識した。
 なお,この医療機器Aは故障していたわけではなく,単に必要な調整がなされていないものであった。

(6) これを受けてX社は,次のア及びイの取組を行うことを検討している。
ア 取引先事業者がX社の医療機器Aの通信販売を行っているとの情報に接した場合には,当該取引先事業者に対し,通信販売をやめるよう要請し,それでもやめない事業者に対しては,X社の医療機器Aの出荷を停止する。
イ 取引先事業者が通信販売業者にX社の医療機器Aを販売しているとの情報に接した場合には,当該取引先事業者に対し,通信販売業者への販売をやめるよう要請し,それでもやめない事業者に対しては,X社の医療機器Aの出荷を停止する。
 ただし,X社は,この取組の例外として,他社で購入した医療機器Aについて調整を行う事業者に調整を依頼するとしている消費者に販売する場合のように,消費者が販売時の調整を必要としない機器に限定して通信販売を行うのであれば,X社の医療機器Aの出荷を継続するとしている。

 ○ 本件の概要図

 このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) メーカーが小売業者に対して,販売方法(販売価格,販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは,商品の安全性の確保,品質の保持,商標の信用の維持等,当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ,かつ,他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,メーカーが小売業者の販売方法に関する制限を手段として,小売業者の販売価格,競争品の取扱い,販売地域,取引先等についての制限を行っている場合には,再販売価格の拘束(独占禁止法第2条第9項第4号,第19条),排他条件付取引(不公正な取引方法第11項,独占禁止法第19条),拘束条件付取引(不公正な取引方法第12項,独占禁止法第19条)の観点から違法性の有無が判断される。
 例えば,当該制限事項を遵守しない小売業者のうち,安売りを行う小売業者に対してのみ,当該制限事項を遵守しないことを理由に出荷停止等を行う場合には,通常,販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行っていると判断される(流通取引慣行ガイドライン第2部第2-5〔小売業者の販売方法に関する制限〕)。

(2) 本件取組は
ア (1)X社の医療機器Aは,調整が行われないままで販売されると性能の発揮が著しく阻害され,消費者に不利益を与える蓋然性が高いこと,(2)X社の医療機器Aの調整は通信販売では行うことができないこと,(3)消費者が販売時の調整を必要としない機器に限定して行う通信販売についてまで禁止するものではなく,必要最小限の制限であることからすれば,本件取組を行う合理的な理由があると考えられること
イ 全ての取引先事業者について同等の制限が課せられること
ウ 店舗販売を行うX社の取引先事業者の中には,メーカー希望小売価格より相当程度低い価格で販売している者も存在し,本件取組が,取引先事業者の販売価格について制限を行うものであるとは考えられないこと
から,X社の取引先事業者の事業活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社が,取引先事業者に対し,X社の医療機器Aのうち,通信販売では行うことのできない調整を行った上で販売することが不可欠なものについて,通信販売及び通信販売を行う事業者への販売を禁止することは,独占禁止法上問題となるものではない。

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