プロ選手が参加するトーナメント戦等の競技会を開催する事業者が,登録プロ選手に対し,競争業者の競技会に一切参加させないことは,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例
1 相談者 X社(プロ選手が参加するトーナメント戦等の競技会を開催する事業者)
2 相談の要旨
(1) X社は,競技Aのプロ選手が参加するトーナメント戦等の競技会を開催する事業者である。
Y社及びZ社は,同じく競技Aのプロ選手が参加するトーナメント戦等の競技会を開催する事業者であるが,X社とY社及びZ社では参加するプロ選手が異なる(以下X社,Y社及びZ社を「3社」という。)。
現在,我が国で競技Aのプロ選手が参加する競技会を開催しているのは3社のみである。
(2) 3社は,それぞれ,自社のプロテストに合格し競技Aのプロ選手登録をした者(以下「登録プロ選手」という。)が参加する競技会を開催している。
X社は,Y社及びZ社に比してより多くの登録プロ選手を有し,その中には人気及び実力のある者も多い。X社は,登録プロ選手のうち自社の競技会への参加を希望する者に対し,参加料を徴収した上で競技会に参加させているが,X社は,登録プロ選手を自らで育成しているものではなく,登録プロ選手と雇用契約を締結し年俸等の給与を支払っているものでもない。
なお,現状,3社は,自社の登録プロ選手が競争業者の競技会に参加することについて特段制限を課していない。
(3) 最近,3社以外の新規事業者が新たに競技Aのプロ選手が参加する競技会を開催するとの噂が出てきた。そこで,X社は,自社の登録プロ選手に対し,X社の競争業者が開催する競技会には一切参加させないよう制限を課すことを検討している。
(4) X社によれば,上記制限の目的は,自社の登録プロ選手が競争業者が開催する競技会に参加すると,観客が目当てのプロ選手を観戦することができないという事態が生じ,これにより観客の期待を裏切ってしまうことを避けるためであるとのことである。
○ 本件の概要図
このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1) 本件は,市場における有力な事業者であるX社が,自社の登録プロ選手に対し,競争業者が開催する競技会への参加を制限するものである。また,X社と登録プロ選手との間に雇用契約と極めて類似した契約関係が存在するといった事情はなく,登録プロ選手の事業者性を否定すべき理由はないと考えられる。 したがって,本件においては,X社からの要請が,競争者に対する取引妨害(不公正な取引方法第14項,独占禁止法第19条)に該当するか否かという観点で検討する。
(2) X社が,自社の登録プロ選手に対し,X社の競争業者が開催する競技会には一切参加させないよう制限を課すことは ア X社の登録プロ選手が,競争業者が開催する競技会に参加すると,観客が目当てのプロ選手を観戦することができないという事態が生じ,これにより観客の期待を裏切ってしまうことを避けるためという制限の理由は,合理的とはいえず,新規事業者の排除等不当な目的を有する疑いは否定できないこと
イ 事業者が自ら育成したプロ選手の活動について競争業者の開催する競技会への参加を制限するような場合と異なり,本件制限に合理性が認められる余地があるとはいい難いこと
ウ 新規事業者が競技会を成功させるには,人気及び実力のあるプロ選手に参加してもらうことが不可欠であると考えられるところ,X社がこのような制限を課すことは新規事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること
から,独占禁止法上問題となるおそれがある。
4 回答の要旨
X社が,自社の登録プロ選手に対し,X社の競争業者が開催する競技会には一切参加させないよう制限を課すことは,独占禁止法上問題となるおそれがある。