農作物の品種の開発事業者が,農業協同組合の非組合員に対し,自社で開発した品種の育成者権について通常利用権の設定を行うに当たり,既に通常利用権の設定を行っている農業協同組合からラベルを購入し添付すること等を義務付けることは,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(農作物の品種の開発事業者)
2 相談の要旨
(1) X社は,花きAという品種を開発し種苗法に基づく品種登録を行い,花きAについて育成者権を有している。
(2) X社は,Y農業協同組合に対し,花きAの育成者権について通常利用権の設定(以下「ライセンス契約」という。)を行っており,Y農業協同組合の組合員が生産した花きAは,同組合を通じて花き市場に流通している。現在,X社との間で花きAについてライセンス契約を締結しているのは,Y農業協同組合のみである。
(3) Y農業協同組合の組合員が花きAの生産を希望する場合は,Y農業協同組合と花きAについてのサブライセンス契約を締結する必要がある(X社はライセンス契約締結をY農業協同組合に委託している。)。花きAの販売に当たっては,X社の監修の下でY農業協同組合が作成した花きAの商品名,品種名及び消費者に向けた栽培のポイントを記載したラベルをY農業協同組合から購入し,添付しなければならない。また,花きA商品の市場価格が400円を超えるのに対し,Y農業協同組合のラベルの販売価格は,実費相当額の1枚8円である。
なお,当該ラベルの商標権はY農業協同組合が保有している。
(4) Y農業協同組合は,栽培技術向上に資することを目的に,X社の監修の下でY農業協同組合内において研究会を開催している。研究会では,大学教授等を招いての講習会,組合員間での栽培技術向上のための意見交換などを行っている。
なお,研究会の運営資金は,ラベルの売上金から賄われており,研究会への参加自体は無料である。
(5) Y農業協同組合の非組合員は,花きA商品の販売を行うためにはX社と花きAのライセンス契約を締結する必要があるところ,現在まで当該ライセンス契約を締結している者はいないが,花きA商品の販売を希望し,X社に花きAのライセンス契約の締結を求めている者がいる。
(6) これに対し,X社は,花きAのブランドの維持,定着を図ることを目的として,新規参入を希望する非組合員との間でライセンス契約を締結するに当たり
ア 花きA商品を販売する際には既にライセンスを受けているY農業協同組合のラベルを購入の上添付すること
イ 新規参入を希望する非組合員がY農業協同組合内で開催される研究会に参加すること
を条件とすることを検討している。
なお,X社は,組合員と非組合員の間でライセンス料に差を設けるものではないとしている。
○ 本件の概要図
このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
本件は,X社が花きAのライセンス契約を締結するに当たり,一定の条件を課すものであることから,拘束条件付取引(不公正な取引方法第12項,独占禁止法第19条)の観点から検討する。
(1) 花き市場に出荷する花きA商品に既にライセンス契約を締結しているY農業協同組合のラベルを購入の上添付することについては ア ラベルの指定は,ブランドの維持,定着という合理的な目的に基づくものであり,ラベルの記載内容も,商品名,品種名及び消費者に向けた栽培のポイントであって競争に悪影響をもたらすものではないこと
イ ラベルの指定は,非組合員のラベルの選択肢を奪うことになるものの,現在普及しているラベルはY農業協同組合のものに限られ,このことがブランドの維持,定着に寄与していること
ウ 商品価格に対するラベルの販売価格は実費相当額であり,不当に高価ではないこと
エ 組合員と非組合員の間でライセンス料に差を設けるものではなく,非組合員の競争力を減殺するものではないこと
から,独占禁止法上問題となるものではない。
(2) 新規参入を希望する非組合員がY農業協同組合内で開催される研究会に参加することは ア 研究会の活動内容は,花きAの栽培技術向上に資するという正当な目的を有するものであり,市場における競争に与える影響も軽微であること
イ 研究会の活動内容には,会員間での栽培に関する意見交換及び情報共有も含まれ,これらは,会員のみならず非組合員にとっても栽培技術や商品のPR方法等に関する情報がリアルタイムで得られるなどの利益を享受することができること
ウ 新規参入する非組合員は,研究会への参加は義務付けられるものの,会議において,自らがこれまでに得てきた知識や経験を報告する義務まで課されるものではないこと
エ 研究会の運営資金はラベルの売上金から賄われており,会員に対して過度な負担を求めるものでもなく,また,組合員と非組合員との間に差を設けるものでもないこと
から,独占禁止法上問題となるものではない。
なお,研究会への参加により,研究会の会員間で生産数量や販売価格を調整したり,会員が個々に行う研究開発を制限したりするなどの競争制限的な行為が行われる場合は,独占禁止法上問題となるおそれがある。
(3)
4 回答の要旨
X社が,Y農業協同組合の非組合員に対し,自社で開発した品種のライセンス契約を締結するに当たり,既にライセンス契約を締結しているY農業協同組合からラベルを購入し添付すること等を義務付けることは,独占禁止法上問題となるものではない。