1 建築用建材メーカーによる定期点検契約の義務付け

 建築用建材メーカーが,建物に用いられる特殊な機能を有する建築用建材を販売するに当たり,使用者に対し,自社と定期点検契約を締結するよう義務付けることについて,十分な点検をして安全性を確保する必要があり,自社以外に十分な点検をできる者が存在せず,また,当該定期点検契約は単年契約であり,契約更新時に,使用者が自社以外の事業者と定期点検契約を締結することは可能であることなどから,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(建築用建材メーカー)

2 相談の要旨

(1)X社は,建築用建材Aのメーカーである。我が国の建築用建材Aの販売分野における同社のシェアは約50パーセント(第1位)である。

(2)建築用建材Aは,使用頻度の高い環境で用いられる特殊な機能を有する建材であり,部品・部材の劣化や摩耗が起こりやすいため,定期的な点検を行わないと,動作不良を起こし,使用者に被害をもたらす危険がある。

(3)建築用建材Aは,建物の建築時に設置され,どのメーカーの建築用建材Aを設置するかは使用者が決定する。建設業者は,使用者の意向に従い,建築用建材メーカーから建築用建材Aを購入し,建物に設置している。

(4)建築用建材Aの点検には一般的な建築用建材の場合よりも高度かつ特殊な技術が必要となるため,現時点で十分な点検をして安全性を確保できる者は,X社のみである。

(5)定期点検を行わずに建築用建材Aを使用し続けると,使用者の安全性が脅かされる危険があるため,X社は,今後,建築用建材Aを販売するに当たり,以下の取組を行うことにより,定期点検契約の締結率を向上させ,十分な安全性を確保することを検討している。
  [1] X社の建築用建材Aを建物に設置するに当たって,X社との間で定期点検契約も併せて締結するよう,建設業者を通じて使用者に対して義務付けること
  [2] X社と使用者との定期点検契約は単年契約とし,契約更新時に使用者が希望すれば,解約することや,独立系事業者(十分な点検をして安全性を確保できる者は現時点で存在しない。)との定期点検契約に乗り換えることは妨げないこと(独立系事業者との定期点検契約に乗り換える場合には,独立系事業者に対して,定期点検に必要な部品の供給を制限しない。)

  • 本件の概要図

 このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者が製品を販売する際に,安定的な取引関係の構築や製品の機能確保を目的として,製品と定期点検をセットにして販売する方法を用いることがある。こうした販売方法が直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,製品市場における有力な事業者が当該販売方法を用いることにより,定期点検を提供する他の事業者を排除するなど,事業者間の公正な競争を阻害する場合には不公正な取引方法として問題となるおそれがある(一般指定第10項〔抱き合わせ販売〕)。

(2)本件は,建築用建材の販売分野において有力な事業者であるX社が,特殊な機能を有する建築用建材Aを販売するに当たり,X社との間で定期点検契約を締結することを義務付けるものであるところ,
  [1] 建築用建材Aは,部品・部材の劣化や摩耗が起こりやすいため,定期的な点検を行わないと,動作不良を起こし,使用者に被害をもたらす危険があることから,十分な点検をして安全性を確保する必要があること
  [2] 建築用建材Aの点検には,一般的な建築用建材の場合よりも高度かつ特殊な技術が必要となるため,X社の建築用建材Aについて,現時点で,X社以外に十分な点検をできる者が存在しないこと
  [3] X社と使用者との定期点検契約は単年契約であり,契約更新時に,使用者が独立系事業者と定期点検契約を締結することは可能であって,その場合に独立系事業者に対して必要な部品の供給は制限しないとしていること
から,建築用建材Aの定期点検分野における公正な競争を阻害するとはいえず,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社が,建物に用いられる特殊な機能を有する建築用建材を販売するに当たり,使用者に対し,X社と定期点検契約を締結するよう義務付けることは,十分な点検をして安全性を確保する必要があり,X社以外に十分な点検をできる者が存在せず,また,当該定期点検契約は単年契約であり,契約更新時に,使用者が独立系事業者と定期点検契約を締結することは可能であることなどから,独占禁止法上問題となるものではない。

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