鉄道事業者が,自社の駅構内及び商業施設の新規テナント事業者が電子マネーに加盟することを希望する場合に,自社が運営する電子マネーの加盟店契約を自社と締結するよう義務付けることについて,自社の駅構内及び商業施設の新規テナント事業者に限定されたものであり,また,他の電子マネーとの併用を制限しないことから,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(鉄道事業者)
2 相談の要旨
(1)X社は,Z地方において鉄道及び路線バスの運行を行う鉄道事業者であり,X社の駅構内及び同社が運営する商業施設内の一部区画をテナントとして小売店,飲食店等を営む事業者(以下「小売事業者」という。)に賃貸している。
なお,Z地方においては,X社以外に他に有力な鉄道事業者が複数存在しており,大規模な商業施設もX社が運営するもの以外に多数存在している。
また,X社は,共通乗車カードを兼ねた電子マネー(以下「電子マネーA」という。)を運営している。
(2)小売事業者が,電子マネーを店舗で利用できるようにするためには,X社のような電子マネー運営事業者との間で加盟店契約を締結する必要がある。
電子マネーの加盟店契約を締結した小売事業者は,電子マネー運営事業者に対し,電子マネーによる決済1回ごとに手数料を支払わなければならない。
(3)現在,X社の駅構内の店舗では9割,X社が運営する商業施設では8割の既存のテナント事業者が,電子マネーAを含めたいずれかの電子マネーに加盟している。
X社は,今後,電子マネーAの加盟店数を増やし,電子マネーAの利便性を向上させることで,一般消費者への電子マネーAの普及を促進させたいとしている。
(4)このため,X社は,新規テナント事業者(新規にテナント賃貸借契約を締結する小売事業者)が電子マネーに加盟することを希望する場合に,電子マネーAの加盟店契約をX社と締結するよう義務付けることを検討している。
なお,X社は,新規テナント事業者に対し,電子マネーAに加盟すれば,他の電子マネーとの併用を制限するものではない。
- 本件の概要図
このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者が,取引の相手方に対し,ある商品又は役務(主たる商品等)の供給に併せて他の商品又は役務(従たる商品等)を自己又は自己の指定する事業者から購入させる行為は,主たる商品等の市場における有力な事業者が行い,従たる商品等の市場における自由な競争を減殺するおそれがある場合には,不公正な取引方法(一般指定第10項〔抱き合わせ販売〕)に該当し,独占禁止法上問題となるおそれがある。
(2)本件は,Z地方においては,X社以外に有力な鉄道事業者が複数存在しているところ,X社が,新規テナント事業者に対して,テナントの賃貸借契約に併せて,電子マネーに加盟することを希望する場合に,X社が運営する電子マネーAの加盟店契約をX社と締結するよう義務付けることは,X社の駅構内及び商業施設の新規テナント事業者に限定されたものであり,また,他の電子マネーとの併用を制限しないことから,他の電子マネー事業者の事業活動を困難にさせるようなものではなく,電子マネー分野の市場における競争を減殺するおそれはないことから,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X社が,X社の駅構内及び商業施設の新規テナント事業者が電子マネーに加盟することを希望する場合に,X社が運営する電子マネーの加盟店契約をX社と締結するよう義務付けることは,X社の駅構内及び商業施設の新規テナント事業者に限定されたものであり,また,他の電子マネーとの併用を制限しないことから,独占禁止法上問題となるものではない。