バス事業者を会員とする団体が,駅前バスターミナルの管理及び運用を行うに当たり,[1]県内に営業所を有しない非会員のバス事業者に新たにバスターミナルを利用させないことについては,独占禁止法上問題となるおそれがあり,[2]既にバスターミナルを利用している会員と非会員との間で,バスターミナル維持管理費の負担額に合理的な範囲内の差を設けることについては,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協会(バス事業者を会員とする団体)
2 相談の要旨
(1)X協会は,A県内に営業所を有して,路線バス,高速バス等の営業を行っているバス事業者を会員とする団体である。
(2)A県a市に所在する主要駅であるA駅の前に,a市がバスターミナルを設置し,その管理及び運用をX協会に委託している。
X協会は,A駅前バスターミナルの管理及び運用を行っている。
バス事業者が,新たにA駅前バスターミナルを利用する場合は,X協会へ申請する必要がある。
(3)現在,A駅前バスターミナルを利用しているバス事業者は,路線バスについてはX協会の会員のみであるが,高速バスについてはA県内に営業所を有していない非会員も利用している。
(4)X協会は,A駅前のバスターミナル維持管理費について,A駅前バスターミナルを利用するバス事業者から徴収した費用(会員と非会員で同額)及びX協会の会員が支払った会費でまかなっている。
(5)X協会は,「バスターミナル運用規程」を策定し,今後,当該運用規程に基づいて,次のようにA駅前バスターミナルの運用を行うことを計画している。
ア X協会が,バスターミナル運用規程で定めた「バス事業者がA県内に営業所を有すること」の条件に基づき,今後,A県内に営業所を有しない非会員のバス事業者が,新たに利用申請する場合,バスターミナルを利用させないこととする。
イ X協会は,現在,会員と非会員で同額の維持管理費を徴収しているところ,今後,A駅前バスターミナルを利用するバス事業者から徴収するバスターミナル維持管理費について,会員が支払った会費が充てられている額を考慮し,会員と非会員との間で負担額に合理的な範囲内の差を設ける。
- 本件の概要図
このようなX協会の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者団体が,新たに事業者が参入することを著しく困難とさせ,又は既存の事業者を排除する行為を行い,これにより市場における競争を実質的に制限することは,独占禁止法第8条第1号の規定に違反する。また,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,原則として独占禁止法第8条第3号,第4号又は第5号の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2―5〔参入制限行為等〕)。
また,公的業務を実施するに際して,非構成事業者等特定の事業者を不当に差別的に取り扱う等して,新たに事業者が参入することを制限し,若しくは既存の事業者を排除し,又は構成事業者の機能若しくは活動を不当に制限することは,独占禁止法第8条第1号,第3号又は第4号の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-12-6〔公的業務の実施等に際しての制限行為〕)。
(2)本件は,a市からA駅前バスターミナルの管理及び運用を委託されたX協会の取組が,参入制限行為や不当な差別取扱いに該当するか否かをそれぞれ検討する必要があるところ,次のように考えられる。
ア A県内に営業所を有しない非会員のバス事業者に新たにバスターミナルを利用させないこと
バス利用者の安全確保,利便性の向上等を図るために,A県内に営業所を有することは,必須のものとはいえず,合理性は認められない。
また,X協会がバスターミナル運用規程において,A県内に営業所を有することを利用の要件として定めることにより,近隣の県に所在するがA県内に営業所を有していない非会員のバス事業者がA駅を発着地とするバス事業に参入することを制限するものであり,独占禁止法上問題となるおそれがある。
イ 既にバスターミナルを利用している会員と非会員との間で,バスターミナル維持管理費の負担額に差を設けること
バスターミナル維持管理費は,X協会の会員が支払った会費が充てられていることを考慮すると,会費を支払っていない非会員に対して合理的な範囲内の差を設けることは,不当に差別的な取扱いとはいえず,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協会が,A駅前バスターミナルの管理及び運用を行うに当たり,[1]A県内に営業所を有しない非会員のバス事業者に新たにバスターミナルを利用させないことについては,独占禁止法上問題となるおそれがあり,[2]既にバスターミナルを利用している会員と非会員との間で,バスターミナル維持管理費の負担額に合理的な範囲内の差を設けることについては,独占禁止法上問題となるものではない。