有料老人ホーム等の運営事業者を会員とする団体が,施設の入居者が前もって支払う入居一時金に関して,内容が不明確なサービスの対価を徴収せず,原則として家賃とすること等を内容とする自主基準を設定することについて,入居一時金の内容を入居者に分かりやすくする取組であり,会員が設定する家賃を制限するものではないことなどから,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協議会(有料老人ホーム等の運営事業者を会員とする団体)
2 相談の要旨
(1)X協議会は,有料老人ホーム等の運営事業者を会員とする団体である。
(2)一般的に,有料老人ホームの入居者が支払う金銭には,入居中の全期間における居室利用費(家賃)を入居の際に一括して前払する「入居一時金」及び日々生活していく上で必要な食費,光熱費,施設運営費等に充てられる「月々の支払」がある。
(3)一部の有料老人ホームの運営事業者が,「礼金」,「権利金」等と称して,内容が不明確なサービスの対価を入居一時金として徴収していることが問題となっている。
(4)上記(3)の問題を受けて,老人福祉法が改正され,「礼金」,「権利金」等と称して,内容が不明確なサービスの対価を徴収することが禁止された。
(5)X協議会は,会員に対し,老人福祉法の改正に沿った取組として,入居一時金に関して,内容が不明確なサービスの対価は徴収せず,原則として各会員が個別に設定する家賃(の前払金)とすること等を内容とする自主基準を設定することを検討している。
- 本件の概要図
このようなX協議会の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者団体が,営業の種類,内容,方法等に関連して,消費者の商品選択を容易にするため表示・広告すべき情報に係る自主的な基準を設定し,また,社会公共的な目的のため営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第3号,第4号及び第5号)。このような活動における競争阻害性の有無については,[1]競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか,及び[2]事業者間で不当に差別的なものではないかの判断基準に照らし,[3]社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものかの要素を勘案しつつ,判断される(事業者団体ガイドライン第2の8(2))。
(2)本件は,X協議会が,施設の入居者が前もって支払う入居一時金に関して,原則として家賃(の前払金)とすること等を内容とする自主基準は,
[1] 会員が設定する家賃を制限するものではなく,需要者の利益を不当に害するものでないこと
[2] 会員間で不当に差別的な内容ではないこと
[3] 老人福祉法の改正に基づき,入居一時金の内容を入居者に分かりやすくする取組であること
から,会員の活動を制限したり,会員間の競争を阻害するものではないため,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協議会が,施設の入居者が前もって支払う入居一時金に関して,内容が不明確なサービスの対価を徴収せず,原則として家賃とすること等を内容とする自主基準を設定することは,入居一時金の内容を入居者に分かりやすくする取組であり,会員が設定する家賃を制限するものではないことなどから,独占禁止法上問題となるものではない。