我が国の主要な輸送機械メーカー5社が,共同して,輸送機械のエンジン作動時に発生する現象に係る研究を大学又は研究機関に委託し,研究成果を共有することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
輸送機械メーカー5社(以下「5社」という。)
2 相談の要旨
(1)5社は,いずれも輸送機械Aのメーカーであり,輸送機械Aの製造販売分野における5社の合算シェアは,約90パーセントである。
また,5社は,各社において,輸送機械Aに搭載するエンジンの開発及び製造を行っている。
(2)輸送機械メーカーの業界では,地球温暖化防止のために,輸送機械Aのエンジンについて,温室効果ガスの排出量を低減する新技術(以下「新技術」という。)の開発が求められている。
新技術を開発するためには,輸送機械Aに搭載する全てのエンジン作動時に発生する窒素酸化物の発生等の現象が生じるメカニズム等の基本的な原理を解明することが必要不可欠である。
しかし,輸送機械Aのエンジン作動時に発生する現象の研究(以下「現象研究」という。)には,膨大な時間と費用を要することから,輸送機械メーカー各社が独自に現象研究に取り組むことは困難な状況にある。
(3)5社は,今後,共同して,輸送機械Aのエンジンに係る現象研究を大学又は研究機関に委託し,研究成果を共有すること(以下「本件共同研究」という。)を検討している。本件共同研究の具体的な内容は次のとおりである。
ア 本件共同研究の対象は,輸送機械Aのエンジンに係る現象研究に限られ,エンジンに関する新技術の研究や新技術を利用したエンジンの開発及び製造は,輸送機械メーカー各社が独自に行う。
イ 本件共同研究の期間は3年を上限とする。
- 本件の概要図
このような5社の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1)研究開発の共同化によって参加者間で研究開発活動が制限され,技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるおそれがある場合には,その研究開発の共同化は独占禁止法第3条(不当な取引制限(同法第2条第6項))の問題となり得ると考えられる(共同研究開発ガイドライン第1-1〔基本的考え方〕)。
研究開発の共同化の問題については,個々の事案について,競争促進的効果を考慮しつつ,技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるか否かによって判断されるが,その際には,[1]参加者の数,市場シェア等,[2]研究の性格,[3]共同化の必要性,[4]対象範囲,期間等が総合的に勘案されることとなる(共同研究開発ガイドライン第1-2〔判断に当たっての考慮事項〕)。
(2)本件は,輸送機械Aの製造販売分野における合算シェアが約90パーセントとなる5社による共同研究であるが,
[1] 本件共同研究の対象は,輸送機械Aのエンジンに係る現象研究に限られること
[2] 研究期間は3年を上限とすることから,必要以上に広汎にわたるものとは認められないこと
から,輸送機械A及びそのエンジンにおける製造販売市場及び技術市場の競争に与える影響は小さいと考えられ,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
5社が,共同して,輸送機械Aのエンジン作動時に発生する現象に係る研究を大学又は研究機関に委託し,研究成果を共有することは,独占禁止法上問題となるものではない。