8 事業者団体による小切手の無料推奨の決定

 金融機関を会員とする団体が,特殊詐欺被害の未然防止策として,多額の預金を引き出そうとする高齢の顧客に,現金の利用に代えて小切手の利用を無料で勧めることを決定することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X協会(金融機関を会員とする団体)

2 相談の要旨

(1)X協会は,A県に店舗を有する全ての金融機関を会員とする団体であり,各金融機関や行政機関と連携して特殊詐欺等の犯罪に関する広報・啓発活動等を行っている。

(2)特殊詐欺は,電話などで被害者を欺き,指定した銀行口座への振込み等の方法により現金等をだまし取る犯罪であり,高齢者の被害が多いとされている。

(3)X協会の会員を含む金融機関は,特殊詐欺被害の未然防止策として,多額の現金を引き出す顧客に対し,現金の利用に代えて小切手の利用を呼び掛ける取組を全国的に行っている。
所持人が小切手を現金化するには一定の時間を要し,この間に当該小切手の受取人を特定できる可能性があることから,小切手の利用は,特殊詐欺による被害防止等に有効とされている。
現在,X協会の会員は,特殊詐欺被害の未然防止策として小切手の利用を勧める際に,自主的に小切手を無料で交付している者もいれば,数百円の手数料を徴収している者もいる。

(4)X協会は,特殊詐欺被害の未然防止策としての小切手利用率の更なる向上を図るため,一定の年齢以上の顧客(以下「高齢の顧客」という。)に対し,現金の利用に代えて小切手の利用を無料で勧めることを検討している。

  • 本件の概要図

 このようなX協会の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者団体が,標準価格,目標価格等価格設定の基準となるものを決定し,これにより市場における競争を実質的に制限することは,独占禁止法第8条第1号の規定に違反する。また,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,原則として同条第4号又は第5号の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-1-(1)-3〔標準価格等の決定〕)。さらに,事業者団体が事業者に対して,標準価格等の決定の実施を確保するために,その内容に従うよう要請,強要等を行い,又は価格制限行為に協力しない事業者に対して,取引拒絶,団体内部における差別的な取扱い,金銭の支払,団体からの除名等の不利益を課すことも,同様に同法に違反する(同ガイドライン第2-1-(2)-1〔価格制限行為への協力の要請,強要等〕)。

(2)本件は,X協会が,多額の預金を引き出そうとする高齢の顧客に,現金の利用に代えて小切手の利用を無料で勧めることを決定するものであり,会員間の競争手段を制限するものではないことから,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X協会が,特殊詐欺被害の未然防止策として,多額の預金を引き出そうとする高齢の顧客に,現金の利用に代えて小切手の利用を無料で勧めることを決定することは,独占禁止法上問題となるものではない。

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