2 競合するメーカーによる共同研究

 輸送機械メーカー8社が,共同して,輸送機械の部品の性能向上につなげるための基礎研究を大学等に委託し,研究成果を共有することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 輸送機械メーカー8社(以下「8社」という。)

2 相談の要旨

(1)8社は,いずれも輸送機械Aのメーカーであり,我が国の輸送機械Aの製造販売分野における8社のシェアは合算で約90パーセントである。また,8社は,各社において,輸送機械Aに搭載する部品αの開発及び製造を行っている。

(2)輸送機械Aの業界では,温室効果ガスの排出量を低減する等の目的から,部品αの性能向上が課題の一つとなっているところ,部品αの動作時に生じる現象についての基礎研究が必要不可欠である。
 しかし,このような基礎研究の実施には,多くの人的資源と資金が必要となる一方,その成果が確実に得られるとは限らないため,個別各社での取組は十分に行われていない。

(3)8社は,今後,共同して,部品αの性能向上につなげるための基礎研究を大学又は研究機関に委託し,研究成果を共有することを検討している。具体的な内容は,次のとおりである。
 ア 部品αに関する技術の研究活動並びに共同研究の成果を利用した製品の開発及び製造については,8社が独自かつ自由に行う。
 イ 共同研究の期間は3年を予定しているが,一定の研究成果が得られた場合には,共同研究を継続する。
 ウ 共同研究の成果の利用条件について,8社に対しては無償とし,共同研究の非参加者に対しては合理的な対価で提供する。

  • 本件の概要図

 このような8社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)研究開発の共同化によって参加者間で研究開発活動が制限され,技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるおそれがある場合には,その研究開発の共同化は独占禁止法第3条(不当な取引制限〔同法第2条第6項〕)の問題となり得ると考えられる(共同研究開発ガイドライン第1-1〔基本的考え方〕)。
 研究開発の共同化の問題については,個々の事案について,競争促進的効果を考慮しつつ,技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるか否かによって判断されるが,その際には,[1]参加者の数,市場シェア,[2]研究の性格,[3]共同化の必要性,[4]対象範囲,期間等が総合的に勘案されることとなる(共同研究開発ガイドライン第1-2(1)〔判断に当たっての考慮事項〕)。
 なお,上記の問題が生じない場合であっても,参加者の市場シェアの合計が相当程度高く,規格の統一又は標準化につながる等の当該事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において,ある事業者が参加を制限され,これによってその事業活動が困難となり,市場から排除されるおそれがある場合に,例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある(私的独占〔同法第2条第5項〕等)(共同研究開発ガイドライン第1-2(2)〔判断に当たっての考慮事項〕)。

(2)本件は,我が国の輸送機械Aの製造販売分野における合算シェアが約90パーセントとなる8社による共同研究であり,また,一定の成果が得られた場合には,共同研究を継続することとしているものの,
 [1] 共同研究の対象は,部品αの性能向上につなげるための基礎研究に限られること
 [2] 8社が独自かつ自由に行う部品αに関する技術の研究活動並びに共同研究の成果を利用した製品の開発及び製造について,特段の制限を設けるものではないこと
 [3] 共同研究は,実施に当たり多くの人的資源等が必要となる一方,その成果が確実に得られるとは限らないため,個別各社では行いにくいものであり,共同して行う必要性が認められること
 [4] 共同研究の成果について,共同研究の非参加者に対しても合理的な対価で提供し利用を制限しないとしていること
 から,我が国の輸送機械Aの製造販売分野及び部品αに関する技術の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 8社が,共同して,輸送機械Aの部品の性能向上につなげるための基礎研究を大学等に委託し,研究成果を共有することは,独占禁止法上問題となるものではない。

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