5 競合するメーカーによる原料の相互供給

 部材メーカー2社が,部材の原料が不足した際に原料を相互供給することについて,工場の被災,事故等の緊急時に製造能力の復旧までの間の不足分を供給する取組である場合には,独占禁止法上問題となるものではないが,それ以外の部材の急激な需要増加等に対応するための取組である場合には,現時点で独占禁止法上の問題の有無を判断することは困難であると回答した事例

1 相談者

 X社及びY社(部材メーカー)

2 相談の要旨

(1)X社及びY社(以下「2社」という。)は,電子部品の製造に使用される部材のメーカーである。

(2)次世代通信規格に対応した情報端末に組み込まれる電子部品の製造への使用が見込まれる部材として,部材Aがある。ただし,当該部品の製造には,部材A以外にも,2社以外の部材メーカーが製造する代替品が使用される可能性もある。

(3)現在,我が国において,部材Aは製造販売されていないものの,部材Aを製造する能力を有する事業者は2社のみである。2社は,部材Aの製造に必須な原料αを自社で製造しているところ,部材Aの販売価格に占める原料αの製造に要する費用の割合は,相当程度大きくなる可能性があると想定している。
 なお,海外には部材Aメーカーが存在するが,一般的に,我が国に所在するユーザー(電子部品メーカー)は,電子部品の品質管理上,国産の部材を好む傾向にある。

(4)2社は,東日本大震災以降,工場の被災,事故等の緊急時において部材を安定供給できる体制の構築をユーザーから求められており,また,次世代通信規格に対応した情報端末が急速に普及した場合における部材Aの急激な需要増加等に備える必要があると考えている。
 そこで,2社は,次のとおり原料αの相互供給を行うことを検討している。
 ア 工場の被災,事故等の緊急時に2社の一方の原料αが不足した場合に,原料αの製造能力の復旧までの間,他方が不足分の原料αを供給する。
 イ 前記アの場合以外で,部材Aの急激な需要増加等により2社の一方の原料αが不足した場合に,必要な期間,他方が原料αを供給する。
 ウ 原料αの供給に必要な情報以外の情報交換は行わず,部材Aの販売価格や販売数量には相互に一切関与しない。

  • 本件の概要図

 このような2社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第3条)。

(2)本件は,今後,我が国の部材Aの製造販売分野において非常に高いシェアを占める可能性のある2社による取組であって,想定される部材Aの販売価格に占める原材料αの製造に要する費用の割合は相当程度大きくなる可能性がある。
 ア 工場の被災,事故等の緊急時に原料αが不足する場合の相互供給は,継続的・恒常的な取組ではなく,原料αの製造能力が復旧するまでの間の不足分を供給するものであり,部材Aの販売価格や販売数量には相互に一切関与しないことから,我が国の部材Aの製造販売分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。
 イ 他方,上記以外で原料αが不足する場合の相互供給は,現時点において部材Aの市場が確立しておらず,部材Aの代替品,輸入品等についての情報が得られないことから,独占禁止法上の問題の有無を判断することは困難である。

4 回答の要旨

 2社が,原料αが不足した際に原料αを相互供給することは,工場の被災,事故等の緊急時に製造能力の復旧までの間の不足分を供給する取組である場合には,独占禁止法上問題となるものではないが,それ以外の部材Aの急激な需要増加等に対応するための取組である場合には,現時点で独占禁止法上の問題の有無を判断することは困難である。

ページトップへ