ソフトウェアのメーカーを会員とする団体が,会員が一定確率によるアイテムの販売を行う際に,全てのアイテムの提供確率を表示することとする旨の自主基準を策定することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協会(ソフトウェアのメーカーを会員とする団体)
2 相談の要旨
(1)X協会は,ソフトウェアAのメーカーを会員とする団体である。我が国に所在するユーザーにソフトウェアAの提供を行うメーカーの多くがX協会に加盟している。
(2)ソフトウェアAは,情報通信端末を利用してユーザーに遊戯させ,その娯楽に供することを目的として,インターネットを通じて提供されるソフトウェアである。ソフトウェアAは,ソフトウェアの作品ごとに遊戯内容が異なっており,ユーザーは,遊戯内容を重視してソフトウェアAの作品を選択する傾向にある。
(3)X協会の会員の多くは,ソフトウェアAのユーザーに対し,遊戯を有利に進めるなどの目的で使用できる多種類のアイテムを販売している。この際,購入するアイテムをユーザー側が自由に選択するのではなく,メーカー側がソフトウェアAに設定した一定確率によりアイテムを選択して販売している場合がある。このような一定確率によるアイテムの販売では,アイテムごとにその提供確率が定められているが,提供確率が低いために入手が著しく困難なものがあり,ユーザーが多額の資金を投じたにもかかわらず,目的とするアイテムが入手できないといった苦情が多発し社会的な問題となっている。
なお,通常,ソフトウェアAの作品間でアイテムの互換性はなく,特定のソフトウェアAの作品で使用するアイテムを他のソフトウェアAの作品で使用することはできない。
(4)そこで,X協会は,ユーザーへの適切な情報提供を通じて安心してソフトウェアAを遊戯してもらう環境を整備するため,会員が一定確率によるアイテムの販売を行う際には,原則として全てのアイテムの提供確率を表示することとする旨の自主基準の策定を検討している。
- 本件の概要図
このようなX協会の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者団体が,営業の種類,内容,方法等に関連して,消費者の商品選択を容易にするため表示・広告すべき情報に係る自主的な基準を設定し,また,社会公共的な目的のため営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第3号,第4号及び第5号)。このような活動における競争阻害性の有無については,[1]競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか,及び,[2]事業者間で不当に差別的なものではないか,の判断基準に照らし,[3]社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものかの要素を勘案しつつ,判断される(事業者団体ガイドライン第2-8(2))。
(2)本件取組は,X協会が,会員が一定確率によるアイテムの販売を行う際に,原則として全てのアイテムの提供確率を表示することとする旨の自主基準を策定するものであるところ,
[1] 会員が提供するソフトウェアAの遊戯内容並びにアイテムの内容,価格及び提供確率自体を制限するものではなく,ユーザーの利益を不当に害するものでないこと
[2] 会員間で不当に差別的な内容ではないこと
[3] ユーザーの適切な選択を促進するとの社会公共的な目的に基づく取組であり,自主基準の内容も合理的に必要とされる範囲内のものであること
から,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協会が,会員が一定確率によるアイテムの販売を行う際に,原則として全てのアイテムの提供確率を表示することとする旨の自主基準を策定することは,独占禁止法上問題となるものではない。