12 農業協同組合による共同販売事業の利用強制

 農業協同組合が,組合員に対し,農業用ビニールハウスを貸し付けるに当たり,当該農業協同組合への最低出荷量を一律に指定することについて,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例

1 相談者

 X協同組合(農業協同組合)

2 相談の要旨

(1)X協同組合は,Y地域における農業者で組織する農業協同組合であり,農産物αの共同販売事業を行っている。Y地域における農業者のほとんどは,X協同組合に加入している。

(2)X協同組合は,国庫補助事業を活用して農産物αを生産するためのビニールハウスを整備し,組合員の農業支援や農産物αのブランド向上を目的として,当該ビニールハウスを組合員に貸し付ける事業を行っている。ビニールハウスは,農産物αの生産に不可欠であるところ,高価格であり,X協同組合のほかに貸付けを行う事業者もないことから,農産物αを生産している多くの組合員は,X協同組合からビニールハウスの貸付けを受けて農産物αを生産し,当該農産物αをX協同組合又はそれ以外の商系業者等に出荷している。

(3)X協同組合は,ビニールハウスの貸付けに当たり,特段の条件を設けていなかったが,貸付けを受けたビニールハウスを使用して生産された農産物αを商系業者等に出荷する組合員が増加してきたため,農産物αの共同販売事業を維持するための出荷量を確保することが難しくなっている。そこで,X協同組合は,ビニールハウスを貸し付けるに当たり,今後,当該ビニールハウスを使用して生産した農産物αのうち一定量以上がX協同組合に出荷されるよう,X協同組合への最低出荷量を一律に指定することを検討している。

  • 本件の概要図

 このようなX協同組合の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1)独占禁止法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(独占禁止法第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協の行為についても,連合会及び単位農協が,[1]任意に設立され,かつ,組合員が任意に加入又は脱退できること,[2]組合員に対して利益分配を行う場合には,その限度が定款に定められていることの各要件を満たしている場合には,原則として独占禁止法の適用が除外される(独占禁止法第22条,農業協同組合法第8条)。しかしながら,[1]不公正な取引方法を用いる場合,又は[2]一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない(独占禁止法第22条)(農協ガイドライン第2部第1-3)。
 単位農協が組合員に対して,共同利用施設を組合員が利用する際に,自己の販売事業の利用を強制する等何らかの方法により,販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な事業活動が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなり,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕,第11項〔排他条件付取引〕又は第12項〔拘束条件付取引〕)(農協ガイドライン第2部第2-2(2))。

(2)本件は,農産物αの共同販売事業の維持を目的として,X協同組合に農産物αを一定量以上出荷することをビニールハウスの貸付けの条件とするものであるところ,
 [1] Y地域において農産物αを出荷する者のほとんどが組合員であること
 [2] 農産物αを生産している多くの組合員は,X協同組合から貸付けを受けたビニールハウスを使用して農産物αを生産していること
 [3] 農産物αの最低出荷量は,X協同組合が一律に指定するものであり,指定の内容によって商系業者等組合員の他の出荷先に対する出荷を制限するおそれがあること
から,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,Y地域における農産物αの販売市場における競争者の取引の機会の減少につながるおそれがあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。
 なお,本件は不公正な取引方法を用いるものであり,独占禁止法第22条による適用除外とはならない。

4 回答の要旨

 X協同組合が,組合員に対し,農産物αの生産に使用されるビニールハウスを貸し付けるに当たり,X協同組合への最低出荷量を一律に指定することは,独占禁止法上問題となるおそれがある。

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