電子部品メーカーが,顧客に対する販売を競合するメーカーに委託することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(電子部品メーカー)
2 相談の要旨
(1)X社は,電子部品Aの製造販売市場への新規参入を予定しているメーカーである。
(2)Y社は,電子部品Aのメーカーであり,X社が電子部品Aの製造販売市場に参入した場合,両社は電子部品Aの製造販売市場において競合することとなる。
X社が新規参入した場合,電子部品Aの製造販売市場におけるX社の市場シェアは約5パーセント,Y社の市場シェアは約15パーセントになるものと予測される。
なお,電子部品Aの製造販売市場においては,市場シェアが20パーセントを超える有力な事業者が複数存在する。
(3)X社は,設立時において,将来,Y社の子会社となり,電子部品Aについて,製造のみを行い,顧客に対する販売はY社が行う予定であったため,独自の販売部門を置いていない。しかしながら,Y社の事情によりX社の子会社化が遅れており,X社の新規参入に当たって,このままではY社による電子部品Aの販売は期待できない状況にある。
(4)そこで,X社は,電子部品Aの製造販売市場への参入に際し,Y社によるX社の子会社化を待たずに電子部品Aの販売をY社に委託することとしたいと考えている。
このようなX社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第3条)。
本件取組は,電子部品Aの販売に係る業務提携であるものの,電子部品Aに係る両社の販売部門が事実上統合されるという点で水平型企業結合(注)に類似するため,企業結合ガイドラインを踏まえて,電子部品Aの製造販売分野における競争の実質的制限について検討を行う。
(注)水平型企業結合とは,同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の企業結合をいう。
(2)本件取組は,X社及びY社が電子部品Aの販売に係る業務提携を行うものであるところ,
① X社及びY社の合算予測市場シェアは,約20パーセントにとどまること
② 市場シェアが20パーセントを超える有力な事業者が複数存在すること
③ 本件取組後のX社及びY社の合算予測市場シェアに基づいて,ハーフィンダール・ハーシュマン指数(以下「HHI」という。)(注1)及びHHIの増分を算出すると,企業結合ガイドラインの水平型企業結合のセーフハーバー基準(注2)に該当すること
から,独占禁止法上問題となるものではない。(企業結合ガイドライン第4-1(3)〔競争を実質的に制限することとならない場合〕)
(注1)HHIは,一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和によって算出される。
(注2)本件取組は,①HHIが1,500以下である場合,②HHIが1,500超2,500以下かつHHIの増分が250以下である場合,③HHIが2,500超かつHHIの増分が150以下である場合のうち,②に該当する。
4 回答の要旨
X社が,電子部品Aの製造販売市場への参入に際し,電子部品Aに係る販売をY社に委託することは,独占禁止法上問題となるものではない。