素材メーカー3社が,特定の地域において生産される原料の共同調達を行うことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
素材メーカー3社(以下「3社」という。)
2 相談の要旨
(1)3社は,我が国の主要な素材メーカーであり,素材Aの原料αを海外から調達し,素材Aを我が国において製造販売している。原料αは主に海外のP,Q及びR地域で生産され,3社を含む世界各地の素材メーカーに販売されている。
(2)我が国の素材Aの製造販売市場における3社の合算市場シェアは約75パーセントであり,素材Aの販売価格に占める原料αの調達価格の割合(以下「原価率」という。)は約85パーセントである。
(3)近年,我が国の近隣地域において素材Aの需要が急増した結果,原料αの調達における我が国の素材メーカーの交渉力が低下しており,3社は,素材Aの原料αを安定的又は効率的に調達することが難しくなってきている。
(4)そこで,3社は,原料αの調達における交渉力を強化するため,今後,海外のS地域において生産される原料αについて,次の方法で共同調達(以下「本件共同調達」という。)を行うことを検討している。
ア 3社共同でS地域における生産者と交渉を行い,原料αに係る調達量(3社合計及び各社の調達量)及び調達価格を決定する。
イ 3社は,素材Aの販売価格や販売数量について情報共有を行わず,個別に決定する。
ウ 3社の調達量全体に占める本件共同調達の割合は約5パーセントであり,本件共同調達を除いて原料αの共同調達を行わない。
このような3社の本件共同調達は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第3条)。
(2)本件共同調達は,3社がS地域で生産される素材Aの原料αを共同で調達するものであるところ,
① 我が国の素材Aの製造販売市場における3社の合算市場シェアが約75パーセントと高く,原価率も約85パーセントと高いものの,3社の調達量全体に占める本件共同調達の割合が約5パーセントと低いこと
② 3社は,素材Aの販売価格や販売数量について情報共有を行わず,個別に決定すること
から,我が国の素材Aの製造販売市場における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
3社が,S地域において生産される原料αの共同調達を行うことは,独占禁止法上問題となるものではない。