農業協同組合が,組合員に対し,指定農産物を当該農業協同組合に出荷した場合に支援金を交付することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協同組合(農業協同組合)
2 相談の要旨
(1)X協同組合は,P地域における農業者で組織する農業協同組合であり,農産物の共同販売事業を行っている。P地域における農業者のほとんどは,X協同組合に加入している。
(2)X協同組合の組合員は,生産した農産物のほとんど全てについて,X協同組合に出荷しているが,X協同組合への出荷義務は課されていない。
(3)X協同組合は,農産物全体の生産を拡大するため,組合員に対し,あらかじめX協同組合が指定した複数の農産物のうちいずれかについて新たに生産し,X協同組合に出荷した場合に以下のとおり支援金を交付することを検討している。
ア 支援金の規模(支援金の総額及び組合員当たりの交付金額)について,組合員による農産物の取扱高を踏まえるなどして上限(取扱高の1パーセントに満たない金額に制限する等)を設定し,交付期間を限定する。
イ 支援金の対象となる農産物のうち新たに生産しないもの(組合員が既に生産している分),及び支援金の対象外となる農産物について,X協同組合に出荷することを条件としない。
ウ 組合員がX協同組合に出荷する農産物について,集荷・販売に当たり,支援金の対象となる新たに生産する農産物と既に生産している農産物で差別的な取扱いはしない。
なお,支援金の対象となる農産物のみを組合員が生産・出荷していたり,当該農産物のみを商系業者等が集荷・販売していたりするという状況は見られず,今後の見込みもない。
このようなX協同組合の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)独占禁止法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(独占禁止法第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協の行為についても,連合会及び単位農協が,①任意に設立され,かつ,組合員が任意に加入又は脱退できること,②組合員に対して利益配分を行う場合には,その限度が定款に定められていることの各要件を満たしている場合には,原則として独占禁止法の適用が除外される(独占禁止法第22条,農業協同組合法第8条)。しかしながら,①不公正な取引方法を用いる場合,又は②一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない(独占禁止法第22条)(農協ガイドライン第2部第1-3)。
単位農協が,農畜産物の一部について販売事業を利用しようとしている組合員に対して,他の農畜産物も併せて販売事業を利用することを強制する等何らかの方法により,単位農協の販売事業を利用せずに販売したいと組合員が考えている農畜産物を含めて販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなり,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕,第11項〔排他条件付取引〕又は第12項〔拘束条件付取引〕)(農協ガイドライン第2部第2-2(1))。
(2)本件取組は,X協同組合が,支援金の交付に当たって,組合員に対し,指定した複数の農産物のうちいずれかについて新たに生産し,当該農産物をX協同組合へ出荷することを条件とするものであるところ,
① 支援金の規模(支援金の総額及び組合員当たりの交付金額)は,組合員による農産物の取扱高を踏まえるなどして上限(取扱高の1パーセントに満たない金額に制限する等)を設定しているとともに,交付期間が限定されていること
② 支援金の対象となる農産物は,組合員が新たに生産しようとする農産物のうち,あらかじめX協同組合が指定した農産物を対象としており,対象外の農産物(指定農産物のうち,新たに生産しないものを含む)についてX協同組合への出荷義務を課すものではないこと
③ 組合員がX協同組合に出荷する農産物について,集荷・販売に当たり,支援金の対象となる新たに生産する農産物と既に生産している農産物で差別的な取扱いはしないこと
④ 支援金の対象となる農産物のみを組合員が生産・出荷していたり,当該農産物のみを商系業者等が集荷・販売していたりするという状況は見られず,今後の見込みもないこと
から,組合員による農産物全体の出荷への影響は限定的であり,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されることはなく,X協同組合の競争者である商系業者等の組合員との取引の機会が減少することにはならないと考えられるため,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協同組合が,組合員に対し,指定農産物をX協同組合に出荷した場合に支援金を交付することは,独占禁止法上問題となるものではない。