農業協同組合が,組合員に対し,自らが商標権を有する商標を付して農産物を出荷する場合,当該農業協同組合のみへの出荷を求めることについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協同組合(農業協同組合)
2 相談の要旨
(1)X協同組合は,P地域における農業者で組織する農業協同組合であり,農産物Aの共同販売事業を行っている。P地域における農業者のほとんどは,X協同組合に加入している。
(2)農産物Aについては,X協同組合が商標αを登録しており,X協同組合は,組合員に商標αの使用を許諾していない。
(3)農産物Aの商圏は全国であり,X協同組合による農産物Aの販売量は,全国における農産物Aの販売量のごく僅かにすぎないが,商標αを付された農産物Aはその品質について高く評価されており,近隣地域の農産物Aよりも高い価格で販売されている。
(4)現在,X協同組合は,組合員に対し,商標αが印刷された出荷用の資材(パック)をあらかじめ配布しているところ,組合員は農産物Aに商標αを付して出荷したい場合には,当該資材に農産物Aを入れてX協同組合の選果場に持ち込み,選果場の職員が実施する全数検査に合格する必要がある。
しかしながら,X協同組合は,組合員の善意に任せて出荷用の資材をあらかじめ配布していることから,組合員が,X協同組合を通すことなく,当該資材を用いて商系業者等へ出荷する可能性が否定できないため,商標αが付された農産物Aの信頼度・ブランド力の低下を懸念している。
(5)そこで,X協同組合は,商標αを付した農産物Aに関する出荷規程において,①組合員が農産物Aに商標αを付して出荷しようとする場合には,当該農産物Aに限ってX協同組合に対する全量出荷を求める旨,②商標αを付さなければ商系業者等に自由に出荷することが可能である旨を明示することとしたいと考えている。
このようなX協同組合の取組は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)ア 独占禁止法の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない(独占禁止法第21条)。他方,そもそも権利の行使とはみられない行為や,外形上,権利の行使とみられる行為であっても行為の目的,態様,競争に与える影響の大きさも勘案した上で,知的財産制度の趣旨を逸脱し又は同制度の目的に反すると認められる場合には,独占禁止法が適用される(知的財産ガイドライン第2-1)。
イ 独占禁止法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(独占禁止法第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協の行為についても,連合会及び単位農協が,①任意に設立され,かつ,組合員が任意に加入又は脱退できること,②組合員に対して利益分配を行う場合には,その限度が定款に定められていることの各要件を満たしている場合には,原則として独占禁止法の適用が除外される(独占禁止法第22条,農業協同組合法第8条)。しかしながら,①不公正な取引方法を用いる場合,又は②一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない(独占禁止法第22条)(農協ガイドライン第2部第1-3)。
単位農協が,農畜産物の一部について販売事業を利用しようとしている組合員に対して,他の農畜産物も併せて販売事業を利用することを強制する等何らかの方法により,単位農協の販売事業を利用せずに販売したいと組合員が考えている農畜産物を含めて販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなり,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕,第11項〔排他条件付取引〕又は第12項〔拘束条件付取引〕)(農協ガイドライン第2部第2-2(1))。
(2)本件は,X協同組合が,組合員に対し,農産物Aに商標αを付す場合,X協同組合のみへの出荷を求めるものであるところ,
① X協同組合による商標法に基づく権利の行使であると考えられること
② 農産物Aに商標αを付して出荷するかどうかは組合員の自由意思に委ねられており,組合員は商標αを付さない農産物Aを商系業者等に自由に出荷することが可能であること
③ X協同組合の競争者である商系業者等は,商標αを付さない農産物Aを組合員等から調達することができ,農産物Aの調達市場から排除されないこと
から,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されることはなく,X協同組合の競争者である商系業者等の組合員との取引の機会が減少することにはならないと考えられるため,独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協同組合が,組合員に対し,自らが商標権を有する商標αを付して農産物Aを出荷する場合,X協同組合のみへの出荷を求めることは,独占禁止法上問題となるものではない。