建設資材のメーカーを会員とする団体が,官公庁及び取引先事業者に対し,業界の窮状を訴えると共に,価格是正を求める要請文書を発出することは,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例
1 相談者
A協会(甲県における建設資材Xのメーカーの団体)
2 相談の要旨
(1) A協会は,甲県において建設資材Xのメーカー30社を会員とする事業者団体であり,甲県内で建設資材Xのメーカーの80%が加入している。また,会員の70%は比較的規模の大きな事業者であり,甲県以外でも建設資材Xを製造している。
なお,会員の取引先は,主に道路工事業者,土木工事業者,舗装業者である。
(2) 建設資材Xについては,原油価格の高騰に伴う原材料費の値上がりや,軽油(ディーゼルエンジン用)価格の高騰に伴う運送費の値上がりのため,各事業者は,原材料費や運送費の上昇分を製品価格に転嫁することを検討している。
(3) こうした状況を踏まえ,A協会としては,次のような要請文書を作成し,発注官公庁及び取引先事業者に対し配布することを検討しているが,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1) 事業者団体が,構成事業者が供給し,若しくは供給を受ける商品若しくは役務の価格を決定し,又はその維持若しくは引上げを決定し,これにより市場における競争を実質的に制限することは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反する。また,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,原則として独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反する。 [事業者団体ガイドライン1-1]
(2) 事業者団体が,業界の窮状を訴える文書を作成し,取引先に配布することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。しかしながら,文書の内容は業界の窮状を訴えるものであっても,当該文書の作成等を契機として会員事業者間で競争制限的な行為が行われるような場合には,このような文書の作成自体が独占禁止法上の問題を生じることとなり,事業者団体においてこのような文書を作成する場合には慎重な対応が必要である。
(3) 本件要請文書は,当該業界における窮状についての説明にとどまるものではなく,表題を「価格是正についてのお願い」とし,また,文中にも「価格是正の御協力を賜りますよう」と記載するなど,会員による建設資材Xの値上げについて,協会として後押しする内容であることから,このような文書の作成を通じて,会員事業者間で建設資材Xの価格引上げが取り決められるなど独占禁止法違反行為を助長するおそれが強い。
(4) なお,文面上,直接的に価格の引上げ等について記載がない場合であっても,当該文書が作成された経緯等から,実質的に値上げなど取引条件の改善を求める内容の場合には,当該文書の作成を契機として,価格の引き上げについて会員事業者間で共通の意思が形成されるおそれは強く,同じく独占禁止法上問題となるおそれがある。
4 回答の要旨
本件要請文書を作成し,取引先事業者に配布することは,独占禁止法上問題となるおそれがある。