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7 事業者団体によるリサイクルシステムの構築

7 事業者団体によるリサイクルシステムの構築

 印刷業者の団体が,産業廃棄物の処理及び再資源化を促進するため,リサイクルシステムを構築することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X工業組合(印刷業者の団体)

2 相談の要旨

(1) X工業組合は,甲県内の印刷業者のうち,中小印刷業者によって構成される団体であり,事業所数でみた加入率は約30パーセント,印刷物の出荷市場におけるシェアもほぼ同程度である。

(2) 会員事業者である印刷業者の多くは,印刷業務により排出される産業廃棄物の収集運搬・処分を,地方自治体の許可を受けて産業廃棄物を扱う運搬業者(以下「運搬業者」という。)や処分業者(以下「処分業者」という。)に委託している。しかし,個々の中小印刷業者は,産業廃棄物の保管場所として十分なスペースを持っておらず,少量の産業廃棄物の収集運搬・処分をその都度,委託する必要があるため,産業廃棄物の収集運搬・処分に係る費用は割高となることから,最近では産業廃棄物を一般の廃棄物に混同して廃棄する中小印刷業者が出てきている。

(3) X工業組合は,このような状況を踏まえ,会員事業者が排出する産業廃棄物をまとめてその処分を委託することで産業廃棄物の収集運搬・処分に係る費用を削減するべく,運搬業者及び処分業者に呼びかけて,これらの事業者との間で次のような取決めを行ってリサイクルシステムを構築することを検討している。

ア 運搬業者は,会員事業者が排出する産業廃棄物を収集・保管する。

イ 運搬業者は,ある程度,産業廃棄物が蓄積された段階で処分業者に産業廃棄物を運搬し,処分業者はそれを処分する。

ウ 収集運搬・処分費用は,会員事業者がそれぞれ運搬業者にまとめて支払う。会員事業者がそれぞれ支払う金額は,X工業組合が運搬業者及び処分業者と交渉で取り決めた単価に,会員事業者が自ら排出した廃棄物の量を乗じたものとする。

エ 処分費用は,運搬業者から処分業者に支払われる。

(4) 共同処理の対象となる産業廃棄物の収集運搬・処分費用は,前記2(3)ウのとおり各会員事業者が負担することになるが,印刷物の製造費用に占める当該費用の割合はごくわずかである。

(5) 本件リサイクルシステムに参加することが見込まれる運搬業者及び処分業者は,現在のところ運搬業者が10社,処分業者が3社であるが,会員事業者が,本件取決めに参加する運搬業者及び処分業者以外の事業者に産業廃棄物の処分を委託することは何ら妨げられない。また,X工業組合としては,他の運搬業者及び処分業者が本件リサイクルシステムに参加を希望した場合,基本的には参加を認めることとしている。

(6) X工業組合は,共同処理を始めた後には,会員事業者以外の印刷業者にも参加を募って,更に産業廃棄物の収集運搬・処分費用の低減につなげることも検討している。

 このようなX工業組合の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 一般に,リサイクルへの取組自体は,社会公共的な目的のためのものであり,事業者が共同して又は事業者団体が主体となって取組を行っても,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。しかし,事業者の共同の取組や事業者団体の取組を通じて,製品市場やリサイクル市場における競争秩序に悪影響を及ぼす場合には,独占禁止法上の問題が生じることとなる。

(2) 本件は,X工業組合が,会員事業者の産業廃棄物の処理に係る費用を軽減することを目的として,会員事業者の排出する産業廃棄物の収集運搬・処分業務を共同化するものである。よって,本件については,X工業組合の共同事業が印刷に係る取引分野(製品市場)における競争に与える影響及び廃棄物の運搬・処分に係る取引分野(リサイクル市場)における競争に与える影響について検討する。

 【参考】 リサイクル・システムの構築が事業者団体により行われる場合に,一定の製品市場又はリサイクル市場における競争が実質的に制限される等のときは独占禁止法第8条第1項の問題となることがある。[リサイクルガイドライン第1-3]

(3) 製品市場について検討すると,本件は,X工業組合が運搬業者及び処分業者と交渉し,会員事業者が負担する収集運搬・処分費用を算出する際の単価を一律に設定するものである。しかしながら,印刷物の製造費用に占める当該費用の割合は小さいことを踏まえれば,製品市場に係る競争に及ぼす影響は間接的なものにとどまると認められる。

 また,X工業組合は,本件リサイクルシステムへの組合員以外の印刷業者の参加を排除する考えはなく,X工業組合の取組により,特定の事業者の事業活動を困難にさせることがない限り独占禁止法上問題となるものではない。

 【参考】 事業者が製品の廃棄物について,共同事業としてリサイクル・システムを構築する場合,リサイクル等に要するコスト(再資源化施設の利用料金,回収施設の利用料金,運搬料金等)が共通化されるが,当該製品の販売価格に対するこれらリサイクル等に要するコストの割合が小さい場合には,当該共同事業が製品市場それ自体の競争に及ぼす影響は間接的であり,独占禁止法上問題となる可能性は低いと考えられる。[リサイクルガイドライン第1-1,(1)]

 リサイクル・システムの利用を合理的な理由なく拒絶することなどによって他の事業者の製品市場への新規参入を阻害し,又は既存事業者の事業活動を困難にさせることにより,製品市場における競争が実質的に制限される場合には,私的独占又は不当な取引制限(独占禁止法第3条)に該当し,(中略)リサイクル・システムへの参加を拒絶又は制限される事業者の通常の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には,不公正な取引方法に該当する(一般指定第1項(共同の取引拒絶))。[リサイクルガイドライン第1-1,(2)イ]

(4) リサイクル市場について検討すると,本件は,これまで会員事業者が個別に結んでいた契約をX工業組合が一括して行うものである。しかしながら,(1)本件取組に参加する運搬業者及び処分業者が取り扱う廃棄物は,X工業組合の会員事業者である印刷業者が排出するものに限られないこと及び(2)他の運搬業者及び処分業者が本件リサイクルシステムへの参加を希望した場合はその参加を基本的には認めることとしていることを踏まえれば,X工業組合の取組によって,運搬業者・処分業者の間の競争が制限されるとは認められない。

 【参考】 多数の事業者が共同でリサイクル・システムを構築することにより,既存のリサイクル事業者(廃棄物の回収・運搬業者,再資源化業者等)の事業活動が困難となり,又は他の事業者がリサイクル市場へ参入することが困難となることによって,リサイクル市場における競争が実質的に制限される場合には,私的独占又は不当な取引制限に該当する(独占禁止法第3条)。[リサイクルガイドライン第1-2,(1)]

4 回答の要旨

 X工業組合が,会員事業者により排出される産業廃棄物の運搬,処分業務を一括して委託する行為は,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

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