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1 銀行2社による店舗外ATMの設置拠点の統廃合及び相互開放

1 銀行2社による店舗外ATMの設置拠点の統廃合及び相互開放

 銀行2社が,共同して,近接する店舗外ATMの設置拠点の統廃合を行うとともに,2社の預金者である一般消費者向けに店舗外ATMの相互開放を行うことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ社及びY社(銀行)

2 相談の要旨

(1) X社及びY社の2社(以下「2社」という。)は,いずれも,日本全国において銀行業を営んでいる。
  銀行は,一般消費者との間の預金契約に基づいて,預金の預入れ及び返還の取引を行うほか,振込入金の受入れ等のサービスを提供している(以下,金融機関が預金契約に基づいて一般消費者との間で行う取引及び一般消費者に対して提供するサービスを「預金取引等」と総称する。)。銀行は,預金取引等を,ATM及び店舗の窓口において行っている。

(2)ア 銀行のATMは,自行の店舗内に設置される店舗内ATMと,ショッピングモールや商業ビルの一角,鉄道駅近辺等に設置されている店舗外ATMに大別される。
イ 銀行は,ATMを相互に接続したネットワークを構築しており,各行の個人預金者(銀行と預金契約を締結している一般消費者をいう。以下同じ。)は,自らが契約している銀行のATM(以下「自行ATM」という。)の外,他の銀行のATM(以下「他行ATM」という。)も利用することができる。
  個人預金者は,他行ATMを利用する場合,原則として利用手数料を支払う必要がある。しかし,一部の銀行の間では,自行の個人預金者が利用手数料を支払わずに相手行のATMを利用できるよう,提携(相互開放)を行っている(以下,当該提携によって個人預金者が利用手数料を負担せずに利用することのできる他行ATMを「相互開放ATM」という。)。
ウ 日本国内には,コンビニエンスストア系列の銀行等がコンビニエンスストアの店舗等に設置しているATM(以下「コンビニATM」という。)がある。コンビニATMを設置している店舗は,約5万店である。コンビニエンスストア系列の銀行等は,多くの銀行と提携し,提携銀行の個人預金者がコンビニATMを利用できるようにしている。
  個人預金者は,コンビニATMを利用する場合も,原則として利用手数料を負担する必要がある。しかし,各銀行が実施している優待プログラム(注)の対象となる個人預金者については,一定の条件の下で,利用手数料を負担せずに,コンビニATMを利用することができる。
(注)「優待プログラム」とは,一定の条件を満たす個人預金者に対し,自行の時間外取引(早朝・夜間の取引)の利用手数料やコンビニATMに係る利用手数料を無料とする優遇策をいう。

(3) 一般消費者にとっては,住居,職場等の自らの行動範囲の近くにATM又は店舗の窓口が存在するか否かという点も,預金契約を締結する銀行を選択する際の考慮要素の一つになる。このため,銀行は,契約者を獲得する競争において,預金の金利等の外に,契約者の利便性を向上させる観点から,ATM及び店舗の窓口の数・立地についても,競争手段の一つとしている。

(4) 店舗外ATMについては,維持に多額の費用を必要とする一方,相互開放ATMやコンビニATMの増加によってその必要性は相対的に低下しており,2社では,店舗外ATMの配置の見直しが喫緊の課題となっている。
 もっとも,この見直しに当たり,店舗外ATMの設置拠点を削減すると,2社の個人預金者にとって預金取引等に係る利便性は低下する。
 このため,2社は,以下のア及びイの取組を一体的に行うことを予定している。
    ア 日本全国に所在する2社の店舗外ATMの設置拠点のうち,近接しているものの一部について,統廃合(2社の一方の店舗外ATMの設置拠点を廃止することをいう。以下同じ。)を行う。廃止対象の店舗外ATMの設置拠点については,利用件数,設置の経緯,設置時期等を考慮して判断する。
    イ 2社の間で,店舗外ATMの相互開放,すなわち,一方の個人預金者が他方の店舗外ATMを自行ATMと同様に利用できるようにする。具体的には,利用手数料を不要とし,ATMで行うことができる取引の種類を自行ATMのものと同一にする。
 なお,ATMに係る振込手数料については,従来どおり,2社がそれぞれ独自に決定する。
 このような2社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例1概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1) 事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。

(2)ア 本件取組は2社の店舗外ATMの設置拠点の統廃合及び相互開放を行うものであるところ,店舗外ATMで行われる取引・サービスは預金取引等であることから,「預金取引等」を役務範囲として画定した。
    次に,一般消費者は,自らの行動範囲の近くにあるATM又は店舗の窓口で預金取引等を行うことが多いと推測されるため,一般消費者の行動範囲を基準に,ATM及び店舗の窓口ごとに地理的範囲を画定すべきであるとも考えられる。もっとも,ATM及び店舗の窓口は日本全国に存在しているところ,地域によって預金取引等に係る競争の状況が異なるという事情は存在しないことから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。
  イ 本件取組については
   (ア) 2社による統廃合の対象となる店舗外ATMの設置拠点は近接しているものの一部にすぎず,また,2社の店舗内ATM及び店舗の窓口は廃止の対象とはならないこと
   (イ) 統廃合が行われる店舗外ATMの設置拠点の周辺地域においても,2社の個人預金者は,本件取組によって相互開放される2社の店舗外ATM等を無料で利用することができること
   (ウ) 2社には有力な競争者が複数存在しており,当該競争者は全国各地にATM及び店舗の窓口を配置していること
から,預金取引等に係る顧客獲得の手段の一つであるATM等の設置競争への影響は限定的であると考えられる。
   また,ATMに係る振込手数料については,特段の取決めを行わず,引き続き,2社の間で競争が行われる。
   以上によれば,本件取組は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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