2 空調設備メーカーの競争者間における相互OEM供給

 空調設備メーカーが,競争者との間で,大型機種及び小型機種に係る相互OEM供給を行うことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 Ⅹ社(空調設備メーカー)

2 相談の要旨

(1)X社及びY社の2社(以下「2社」という。)は,いずれも,空調設備Aのメーカーである。

(2)ア 空調設備Aは,商業施設,ビル等に設置されるものであり,主要構成部品の大きさによって大型機種と小型機種に大別される。
  イ 空調設備Aの大型機種及び小型機種については,製造設備を大きく変更することなく,両方を製造することができる。このため,我が国の空調設備Aのメーカーは,いずれも,大型機種及び小型機種の両方を製造することが可能である。
  ウ 我が国の空調設備Aの製造販売分野における2社の市場シェアは,大型機種・小型機種合計で,X社が約10パーセント(第3位)であり,Y社が約1パーセント(第5位)である。また,2社よりも当該製造販売分野での市場シェアが大きい競争者としては,市場シェア約55パーセント(第1位)を有するP社,市場シェア約25パーセント(第2位)を有するQ社が存在する。

(3)ア X社は,空調設備Aについては,全ての需要者に対応することを営業方針としており,大型機種及び小型機種の両方を製造販売している。中でも,X社は,小型機種の製造販売を得意としている。
  イ 一方,Y社も大型機種及び小型機種の製造を行っているが,Y社は大型機種の製造販売を得意としている。
  ウ X社は,収益の拡大を図るため,市場でのニーズが高い小型機種の製造販売を増加させたいと考えている。
   しかし,X社は,前記アの営業方針により,大型機種の製造販売を取りやめて人員を小型機種の製造販売に振り替えることは難しく,また,その他の方法による新たな人材確保も難しいことから,このままでは小型機種を増産することができない。

(4)そこで,X社は,自社における大型機種の販売を取りやめることなく,大型機種の製造を行っていた人員を小型機種の製造に振り替えるため,Y社との間で,次の方法により,大型機種及び小型機種の相互OEM供給(以下「相互OEM供給」という。)を行うことを検討している。
  ア X社は,Y社から,大型機種のOEM供給を受ける。
  イ X社は,Y社に対し,小型機種のOEM供給を行う。
  ウ 2社は,それぞれ独自に空調設備Aを販売し,互いに販売価格,販売数量,販売先等には一切関与しない。
 このようなX社及びY社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例2概要図
 

3 独占禁止法上の考え方

(1)ア 事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
  イ 競争者間の業務提携は,提携の範囲が特定の業務に限定されていることが多い。また,提携関係は,契約の満了,解除等によって解消され得る。このため,当該業務提携については,提携当事者間での事業活動の一体化の程度は,合併等の企業結合ほど強くはないと考えられる。
   しかし,競争者間の業務提携においても,一定程度,事業者同士の意思決定及びそれに伴う行動が一体化するため,提携当事者間の競争が失われる可能性がある。このため,提携当事者が一体化して行動することによる市場への影響については,企業結合ガイドラインの考え方(第4-2等)を踏まえて評価することが可能であると考えられる。例えば,企業結合ガイドラインのうち,本件取組を評価する上で参考になると考えられる項目について,業務提携の場合に即して考え方を整理すると,次のようなことがいえる。
 (ア) 業務提携後の提携当事者の市場シェアが大きい場合及び業務提携による市場シェアの増分が大きい場合には,それだけ当該業務提携の競争に及ぼす影響が大きい。
    同様に,業務提携後の提携当事者の市場シェアの順位が高い場合及び業務提携により順位が大きく上昇する場合には,それだけ当該業務提携の競争に及ぼす影響が大きい。
 (イ) 従来,提携当事者間で競争が活発に行われてきたことや提携当事者の行動が市場における競争を活発にしてきたことが,市場全体の価格引下げや品質・品揃えの向上等につながってきたと認められる場合には,業務提携後の提携当事者の市場シェアやその順位が高くなかったとしても,当該業務提携によりこうした状況が期待できなくなるときには競争に及ぼす影響が大きい。
 (ウ) 業務提携後の提携当事者の市場シェアと競争者の市場シェアとの格差が大きい場合には,それだけ当該業務提携の競争に及ぼす影響が大きい。
     他方,業務提携後の提携当事者と同等以上の市場シェアを有する競争者が存在する場合には,競争に及ぼす影響は小さい。

(2)ア(ア) 空調設備Aの大型機種と小型機種では,大きさ等が異なっているため,需要の代替性(需要者にとっての代替性)は認められない。
     もっとも,複数の商品間で需要の代替性が認められない場合でも,供給の代替性が認められる場合(すなわち,供給者が多大な追加的費用やリスクを負うことなく,短期間のうちに,ある商品から他の商品に製造・販売を転換し得る場合)には,当該他の商品の供給者が競争圧力となり得ることから,供給の代替性を考慮して商品範囲を画定することがある。本件取組についていえば,2社を含む我が国の空調設備Aのメーカーは,大型機種及び小型機種のいずれも製造することが可能であり,大型機種と小型機種の間に供給の代替性が認められることを踏まえ,「空調設備A」を商品範囲として画定した。
   (イ) 空調設備Aについては,日本国内での輸送に関して,輸送の難易性や輸送費用の点からの制約はなく,また,地域によって販売価格が異なるなどの事情も存在しない。
     このため,「日本全国」を地理的範囲として画定した。
  イ 本件取組の場合,相互OEM供給の開始後の2社の市場シェアの合計は,約11パーセントと小さい。また,X社からみた相互OEM供給の開始に伴う市場シェアの増分は,約1ポイントにすぎない。さらに,2社の市場シェアの順位については,X社は第3位と中位にあるが,Y社は第5位と低く,相互OEM供給によってX社の順位が上昇することもない。
  ウ 空調設備Aの製造販売分野において,2社間の競争や2社の行動が市場全体の競争を牽引してきたという状況が認められる場合であって,本件取組によってこうした状況が期待できなくなるときには,本件取組が競争に及ぼす影響は大きなものとなる。しかし,本件取組に関しては,そのような状況の存在は,特に認められない。
   また,2社は,本件取組の開始後においても,それぞれ独自に空調設備Aを販売し,互いに販売価格,販売数量,販売先等には一切関与しないため,本件取組によって2社の間の競争がなくなるというものでもない。
  エ 2社と同等以上の市場シェアを有する競争者としては,市場シェア約55パーセント(第1位)のP社,市場シェア約25パーセント(第2位)のQ社が存在している。
  オ これらの点に鑑みれば,本件取組が空調設備Aの製造販売分野における競争に与える影響は,小さいといえる。
  カ したがって,本件取組は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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