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4 医薬品メーカーによる医薬品の研究開発用化合物の共同購入及び共同利用

4 医薬品メーカーによる医薬品の研究開発用化合物の共同購入及び共同利用

 医薬品メーカー10社が医薬品の研究開発に用いる化合物の共同購入及び共同利用を行うことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 Ⅹ社(医薬品メーカー)

2 相談の要旨

(1)X社ら10社(以下「10社」という。)は,いずれも,医薬品メーカーである。

(2)国内医薬品メーカーによる医薬品の研究開発の流れの大要は,次のとおりである。
  ア 国内及び海外の化合物メーカーから,医薬品の研究開発に用いる化合物(以下「特定化合物」という。)を購入
  イ 多数の特定化合物の中から,開発・発売を目指す医薬品に係る効果・効能を有すると推測されるものを選定(基礎研究)
  ウ 前記イで選定した特定化合物の構造を基に未知の構造を持つ化合物をデザインし,より安全性が高く,効果が強い化合物を創出(応用研究)
  エ 創出された化合物の有効性等の精査を行い,医薬品化に向けた研究・試験を実施

(3)国内医薬品メーカーは,特定化合物を集めたライブラリ(以下「化合物ライブラリ」という。)を所有している。医薬品の開発を行うためには,化合物ライブラリにおいて多くの特定化合物を所有することが重要である。
 なお,特定化合物については,試薬としての用途もあるので,様々な業界で用いられており,医薬品メーカーのほか,農薬メーカー,化粧品メーカー,インクメーカー,食品メーカー等も購入している。

(4)ア 10社は,効率的な創薬研究基盤の構築及び日本の創薬力の向上を図ることを目的として,コンソーシアムを設立し,コンソーシアムにおいて,特定化合物の共同購入及びパブリックライブラリ(共同購入した特定化合物をベースとした,10社が自由に利用することのできる化合物ライブラリをいう。以下同じ。)の運営を行うことを検討している。
    なお,10社が独自に特定化合物を購入すること及びパブリックライブラリ以外の化合物ライブラリを利用することは,一切制限されない。
  イ パブリックライブラリで保有する特定化合物の数は,推計では,国内医薬品メーカーが所有する特定化合物全体の約1割程度である。
    また,前記⑶のとおり,特定化合物は様々な業界で用いられているところ,パブリックライブラリに係る特定化合物の購入計画を基に計算すると,我が国の特定化合物の購入市場に占める本件の共同購入の割合は,僅少である。
  ウ パブリックライブラリは前記⑵イの基礎研究の初期段階で利用するものであるため,10社の間で共通化するコストが医薬品の製造コスト全体に占める割合は小さい。
  エ 10社は,パブリックライブラリを利用して得た研究成果をコンソーシアム及び他の参加者に開示する義務を負わない。
    また,10社は,パブリックライブラリ内の特定化合物の利用状況に関する情報について各社間で共有しないようにする情報遮断措置を講ずる。
  オ コンソーシアムへの参加・脱退は自由である。
    なお,コンソーシアムに参加しない医薬品メーカーも,所定の利用料を支払えば,パブリックライブラリを利用することが可能である。
  カ このような10社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例4概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。

(2)まず,本件取組が我が国の特定化合物の購入分野における競争に与える影響について検討する。
  特定化合物については医薬品メーカーのほかに農薬メーカー,化粧品メーカー,インクメーカー,食品メーカー等も購入しているところ,特定化合物の購入市場における本件取組による共同購入の割合は僅少であることから,本件取組は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

(3)次に,本件取組が我が国の医薬品の製造販売分野における競争に与える影響について検討する。
  本件取組は
  ア 10社は,パブリックライブラリを利用して得た研究成果をコンソーシアム及び他の参加者に開示する義務を負わず,本件取組の実施後においても,各社が独自に医薬品の研究開発を行うこと
  イ パブリックライブラリで共同利用する特定化合物の数は,推計では,国内の医薬品メーカーが所有する特定化合物全体の約1割程度であり,また,コンソーシアムに参加する場合であっても,特定化合物の独自購入及びパブリックライブラリ以外の化合物ライブラリの利用は一切制限されないこと
  ウ 10社の間でパブリックライブラリ内の特定化合物の利用状況に関する情報を共有しないようにする措置が講じられること
  エ 10社によるパブリックライブラリの利用は基礎研究の初期段階で行われるものであるところ,10社の間で共通化するコストが医薬品の製造コスト全体に占める割合は小さく,医薬品の価格への影響は限定的であると推測されること
から,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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