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6 化学品メーカーの団体による会員保有工場の定期修理に関する日程調整

6 化学品メーカーの団体による会員保有工場の定期修理に関する日程調整

 特定の化学品のメーカーを会員とする団体が,会員が実施する工場の定期修理の日程を調整することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ協会(化学品Aのメーカーを会員とする団体)

2 相談の要旨

(1)X協会は,化学品Aのメーカーを会員とする任意団体である。
    化学品Aは,様々な製品の原料となる基礎化学品であり,会員は,自社が保有する工場において製造した化学品Aを製品メーカーに販売している。X協会会員の化学品Aの国内シェアは,100パーセントである。

(2)化学品Aのメーカーは,自社が保有する工場について,法令に基づき,数年に一度,機器の分解,点検,整備,清掃等(以下「定期修理」という。)を行っている。当該メーカーは,定期修理を工事業者及び検査業者(以下「工事業者等」という。)に委託して実施している。

(3)定期修理は,規制緩和に伴う点検間隔の拡大,工場設備の老朽化等に伴い,1回当たりの作業量が増加しており,実施期間が長期化する傾向にある。また,化学品Aのメーカーは,日照時間,気温等の面で作業条件の良い春又は秋に定期修理を実施する傾向にある。このため,当該メーカー各社の定期修理は,特定の時期に同時並行で行われる状況になっている。

(4)化学品Aのメーカーは,定期修理の期間中,工場内の機械,設備等を全て停止しなければならない。また,いずれの当該メーカーも,化学品Aの生産や貯蔵には余力がない。このため,複数の当該メーカーが定期修理を同時に実施すると,化学品Aについて,市場における供給量が減少し,需給のひっ迫による価格の高騰という事態が生じる。
    加えて,定期修理を請け負う工事業者等においては,定期修理が特定の時期に集中することにより,作業員の不足,長時間労働等の問題が生じている。

(5)X協会は,前記⑷記載の市場における化学品Aの供給量の減少の防止及び工事業者等における長時間労働等の問題の解消のため,次の方法により,会員が実施する定期修理の日程の調整を行うことを検討している。
    ア 工事業者等の団体,製品メーカーの団体及び学識経験者からそれぞれ選出された委員によって構成される「定修会議」と称する調整機関を外部に設置する。定修会議の事務局はX協会が務めるが,X協会の会員は定修会議には関与しない。
    イ X協会の会員は,一定の期間における定期修理の実施日程をX協会に提出する。定修会議は,当該実施日程を確認し,定期修理の実施時期が重複する会員に対して,日程変更の可否を確認する。
      なお,定修会議においては,定期修理の実施日程に係る情報がX協会の会員間で共有されることのないよう,当該情報の遮断措置を講ずる。
    ウ 定修会議は,定期修理の実施時期の調整のみを行い,それ以外の調整は一切行わない。
    エ X協会の会員にとって,定修会議による定期修理の日程調整への参加及び調整結果の受入れは任意であり,強制されるものではない。
    このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例6概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)独占禁止法第8条は,事業者団体が構成事業者の機能又は活動を不当に制限する行為(同条第4号)を禁止している。事業者団体が構成事業者の事業活動に関して制限を加えて公正かつ自由な競争を阻害することが,一般的に同号に該当する。
    事業者団体が,営業の種類,内容,方法等に関連して,社会公共的な目的又は労働問題への対処のために自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
    一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。このような活動における競争阻害性の有無については
・ 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
及び
・ 事業者間で不当に差別的なものではないか
の判断基準に照らし
・ 社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
の要素を勘案しつつ,判断される。
    また,自主規制等の利用・遵守については,構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって,事業者団体が自主規制等の利用・遵守を構成事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライン第2-8⑵〔自主規制等〕)。

(2)本件取組については
    ア(ア) 定期修理の実施時期の重複に伴う市場における化学品Aの供給量の減少の防止及び工事業者等における長時間労働等の問題の解消という正当な目的に基づくものであり
       (イ) X協会の会員間で情報が共有されないための措置を講じた上で定期修理の実施日程の調整のみを行うという取組は,前記(ア)の目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものであること
    イ(ア) 定期修理の委託分野においては,X協会の会員の取引先である工事業者等における長時間労働等の是正につながるものであり,当該工事業者等の利益を害することにはならないこと
       (イ) また,化学品Aの販売分野においては,化学品Aの供給量の減少の防止につながるものであり,X協会の会員の取引先である製品メーカーの利益を害することにはならないこと
    ウ 定期修理の実施日程の調整作業において特定のX協会の会員が有利又は不利となるような取扱いを受けることはなく,公平性が確保されており,当該会員間で不当に差別的なものではないこと
    エ X協会の会員による本件取組への参加は,任意であること
から,X協会の会員の機能又は活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。
    なお,定修会議は工事業者等の団体,製品メーカーの団体等から選出された委員によって構成されるものであり,同業者間で情報交換を行うことになるため,本件取組を通じ,これらの団体によって,定期修理に係る料金又は受注予定者の決定,化学品Aを原料とする製品の販売価格の決定等の独占禁止法違反行為が誘発されないように留意する必要がある。

4 回答

    本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。
    なお,定修会議は工事業者等の団体,製品メーカーの団体等から選出された委員によって構成されるものであり,同業者間で情報交換を行うことになるため,本件取組を通じ,これらの団体によって,定期修理に係る料金又は受注予定者の決定,化学品Aを原料とする製品の販売価格の決定等の独占禁止法違反行為が誘発されないように留意する必要がある。 

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