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7 専門工事業者の団体による会員・発注者に対する現場における作業時間の短縮の要請

7 専門工事業者の団体による会員・発注者に対する現場における作業時間の短縮の要請

 特定の種類の建設機械を使用する専門工事業者を会員とする団体が,当該建設機械のオペレーターの長時間労働を是正するため,工事現場における作業時間を短縮するよう会員に呼び掛けるとともに,工事の発注者に対しても同様の要請を行うことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ協会(専門工事業者を会員とする団体) 

2 相談の要旨

(1)Ⅹ協会は,甲地域に所在する特定専門工事業者(特定の種類の建設機械〔以下「特定建機」という。〕を使用する専門工事業者をいう。以下同じ。)を会員とする団体である。甲地域に所在する特定専門工事業者のうち,X協会に加入している者の数は,5割程度である。また,X協会の会員が保有する特定建機の台数は,甲地域の特定専門工事業者が保有する特定建機の6割程度を占めている。

(2)ア 平成30年6月29日に成立した働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による労働基準法(昭和22年法律第49号)の改正により,建設業界においては,労働時間の上限規制が令和6年4月1日から適用されることから,長時間労働の是正に向けた取組を進めていくことが必要不可欠な状況にある。
    イ 工事現場における特定建機の作業時間は,一般的に8時間である。
      もっとも,特定建機については,原則として,工事現場での作業に加え,その前後の時間帯に,事業所と工事現場との間を往復し,点検等を行う必要がある。事業所と工事現場の往復,点検等に関しては,安全上の問題等から,省略することができない。このため,特定建機のオペレーターの労働時間は,一般の建設作業員と比べて,長くなる傾向にある。X協会が会員を対象に行った調査によれば,会員が雇用している特定建機のオペレーターの年間の時間外労働時間は,規制の上限である720時間を大幅に超過している状況にあり,時間外労働時間を適正な水準まで抑制するためには,工事現場における1日当たりの特定建機の作業時間を最低でも2時間短縮する必要がある。

(3)X協会は,このような状況を踏まえ,会員が雇用する特定建機のオペレーターの長時間労働を是正するために,工事現場における1日当たりの特定建機の作業時間を2時間短縮するよう会員に呼び掛けるとともに,工事の発注者に対しても同様の要請を行うことを検討している。ただし,X協会は,会員に対して,当該作業時間の短縮の遵守を強制することはしない。
    このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例7概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)独占禁止法第8条は,事業者団体が構成事業者の機能又は活動を不当に制限する行為(同条第4号)を禁止している。事業者団体が構成事業者の事業活動に関して制限を加えて公正かつ自由な競争を阻害することが,一般的に同号に該当する。
    事業者団体が労働問題への対処のために営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
    一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。このような活動における競争阻害性の有無については
・ 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
及び
・ 事業者間で不当に差別的なものではないか
の判断基準に照らし
・ 社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
の要素を勘案しつつ判断される。
    また,自主規制等の遵守については,構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって,事業者団体が自主規制等の遵守を構成事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライン第2-8⑵〔自主規制等〕)。

(2)ア(ア) 本件取組は,建設業界に対する労働時間の上限規制の適用を見据え,会員が雇用する特定建機のオペレーターの長時間労働の是正を図ることを目的としており,当該目的は正当なものである。
       (イ) 特定建機の場合,工事現場での作業の前後の時間帯における事業所と工事現場の往復,点検等については,安全上の問題等から省略することができない。長時間労働の是正には特定建機のオペレーターの数の増加が必要であるが,技能労働者の減少,高齢化の進行等の建設業を取り巻く労働環境に鑑みると,当該オペレーターの雇用を増加することは困難である。このため,当該オペレーターの長時間労働を是正するためには,工事現場における作業時間を短縮するほかない。
     また,工事現場における1日当たりの特定建機の作業時間を2時間短縮するという改善案は,会員が雇用する特定建機のオペレーターの労働時間の実態を踏まえ,当該労働時間が時間外労働の上限規制をどの程度超過することになるかという観点から検討されたものであり,合理的なものであると認められる。
       (ウ) したがって,本件取組は,正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものであるといえる。
    イ 需要者である発注者においては,本件取組によって,工期が長期化する可能性がある。
      もっとも,本件取組は,正当な目的に基づく合理的なものである。また,発注者は,作業工程の見直し等の方法によって工期への影響をある程度緩和することが可能である。これらの点を踏まえると,本件取組によって発注者の利益が不当に害されるとはいえないと考えられる。
    ウ 本件取組は,全ての会員に対して同一の内容の呼び掛けを行うものであり,会員間で差別的な内容ではない。
    エ X協会は,会員に対して,本件取組の遵守を強制することはしない。
    オ 以上によれば,本件取組は,X協会の会員の機能又は活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。
      なお,前記⑴の判断基準に照らし本件取組が競争を阻害することがないようにするとの観点から,本件取組を行うに際しては,X協会において,会員からの意見聴取の十分な機会が設定されるべきであるとともに,必要に応じ,会員に対する発注者や知見のある第三者等との間で意見交換や意見聴取が行われることが望ましい。

4 回答

   本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。
 なお,本件取組を行うに際しては,会員からの意見聴取の十分な機会が設定されるべきであるとともに,必要に応じ,会員に対する発注者や知見のある第三者等との間で意見交換や意見聴取が行われることが望ましい。 

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