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8 包装資材メーカーを会員とする団体による会員の取引先に対する配送の効率化及び附帯作業の削減・有料化の要望

8 包装資材メーカーを会員とする団体による会員の取引先に対する配送の効率化及び附帯作業の削減・有料化の要望

 包装資材メーカーを会員とする団体が,会員を通じ,取引先に対して包装資材に係る配送の効率化を要望することは,独占禁止法上問題となるものではないが,附帯作業の削減・有料化を要望することは,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ協会(包装資材Aのメーカーを会員とする団体) 

2 相談の要旨

(1)X協会は,甲地域で包装資材Aのメーカーを会員とする団体である。X協会の会員の中には,包装資材Aの生産量の市場シェアが全国で上位のメーカー又はそのグループ会社が複数含まれている。

(2)ア X協会の会員は,取引先から受注した包装資材Aを製造し,注文の都度,取引先に納品している。当該会員は,包装資材Aの納品については,運送業者に委託して行っている。
  イ 運送業者がX協会の会員から委託を受けて包装資材Aを当該会員の取引先に納品する際には,納品場所である事務所内で商品の仕分を行い,事務所内の複数の異なる場所に商品を運搬する場合がある(以下,この運送業者が行う商品の仕分及び運搬の業務を「附帯作業」という。)。
    ウ 最近,運送業者からX協会の会員に対し,予定外の附帯作業に関する苦情,納品時における長時間の待機に関する苦情等が多数寄せられており,これらの苦情に対応した運送業者の労働条件改善が業界内での課題となっている。

(3)そこで,X協会は,次の事項を要望する文書(以下「本件文書」という。)を作成し,会員を通じて本件文書を取引先に配布することを検討している。
    ア 社会通念上許容される範囲内において,取引先が希望する日時より前の時間帯に納品することの承認
    イ 納品に係る待機時間の短縮
    ウ 休日配送の削減
    エ 需要予測を踏まえた計画的な発注による納品頻度の引下げ
    オ 附帯作業の削減又は有料化
 なお,以下では,前記アからエまでの事項に関する取組を「配送の効率化」と総称し,前記オの事項に関する取組を「附帯作業の削減・有料化」という。
    配送の効率化は,従来数回だった発注を1回にまとめてもらう,従来の朝一番の時間指定分を前日のうちに納品するなどの方法により,運送業者がより効率的に包装資材Aを納品できるようにするという取組である。
    また,X協会の会員と取引先との間における附帯作業の実施に関する契約の状況については,詳細は不明である。
    取引先に対して本件文書を配布するかどうかは,X協会の各会員の判断に任されている。
    このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例8概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者団体ガイドラインの考え方
  独占禁止法第8条は,事業者団体が構成事業者の機能又は活動を不当に制限する行為(同条第4号)を禁止している。事業者団体が構成事業者の事業活動に関して制限を加えて公正かつ自由な競争を阻害することが,一般的に同号に該当する。
    事業者団体が,社会公共的な目的又は労働問題への対処のために営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
    一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。
    このような活動における競争阻害性の有無については
・ 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
及び
・ 事業者間で不当に差別的なものではないか
の判断基準に照らし
・ 社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
の要素を勘案しつつ,判断される。
    また,自主規制等の遵守については,構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって,事業者団体が自主規制等の遵守を構成事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライン第2-8⑵〔自主規制等〕)。

(2)配送の効率化
    ア 配送の効率化は,運送業者の労働条件改善を目的として行うものであり,当該目的は,正当なものである。また,納品頻度の引下げ,納品に係る待機時間の短縮等によって配送の効率化を進めるという取組は,当該目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものである。
    イ X協会の会員の取引先は,配送の効率化に伴う前倒しでの納品に対応するために,保管場所の確保等を行わなければならない場合があり得る。しかし,X協会が検討している配送の効率化の内容は,数回の発注を1回にまとめる,朝一番の時間指定分を前日のうちに納品するという程度の内容であるので,保管場所の大規模な改修等が必要になるわけではないと考えられる。
      加えて,配送の効率化は,前記のとおり,正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲で行われるものである。
      これらの点に鑑みれば,配送の効率化が取引先の利益を不当に害するとまではいえないと考えられる。
    ウ 配送の効率化は,X協会の会員間で差別的な内容ではない。
    エ 配送の効率化については,X協会の会員に遵守を強制するものではない。
    オ したがって,配送の効率化は,X協会の会員の機能又は活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

(3)附帯作業の削減・有料化
    ア(ア) 包装資材Aの納品時の条件に附帯作業が含まれているか否か,また,附帯作業の料金が幾らであるかは,X協会の会員の取引先が包装資材Aの購入先を選択する際の考慮要素となっており,当該会員にとって競争手段の一つになっていると考えられる。
        今般のX協会による附帯作業の削減・有料化は,会員の取引先に対して一律に附帯作業の削減又は有料化を要望するという内容であり,会員の競争手段を制限するものである。X協会の会員の中には市場シェアが大きい大手の事業者が含まれているので,X協会がかかる制限を行うことによる競争への影響は大きい。
       (イ) また,X協会の会員の取引先は
・ 従来の契約内容には附帯作業が含まれていたにもかかわらず,これが実施されなくなる
・ 従来X協会の会員に支払っていた運送費の中に附帯作業に係る料金が含まれていたにもかかわらず,追加料金が請求されるようになる
などの場合には,包装資材Aの受領に係るコストが増加するという不利益を被ることになる。
       (ウ) このように,附帯作業の削減・有料化は,X協会の会員の競争手段を制限し,需要者たる取引先の利益を害するおそれがあるものである。
    イ 運送業者の労働条件改善という本件取組の目的は,正当なものである。
      ただし,当該目的を達成するためには,商品の配送時に附帯作業を含めることを条件とするか否か,附帯作業に係る料金をX協会の会員,取引先のどちらが負担するか,取引先が料金を負担する場合に金額を幾らにするかなどを決める必要があるところ,これらの事項は,X協会の会員が自らの判断で取引先と個別に協議を行って決定すべきものである。X協会が一律に取引先に対して附帯作業の削減・有償化を求めることは,当該目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものであるとはいえない。
    ウ したがって,附帯作業の削減・有料化は,X協会の会員の機能又は活動を不当に制限するおそれがあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。

4 回答

   X協会が,会員を通じ,取引先に対して包装資材Aに係る配送の効率化を要望することは,独占禁止法上問題となるものではない。
 他方,取引先に対して附帯作業の削減・有料化を要望することは,独占禁止法上問題となるおそれがある。 

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