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9 特定の工法の普及活動等を行う団体による標準施工歩掛の策定・公表

9 特定の工法の普及活動等を行う団体による標準施工歩掛の策定・公表

 コンクリート構造物の補修・補強に係る特定の工法の普及活動等を行う団体が,会員である施工業者から収集したデータを基に土木工事用の標準施工歩掛(当該工法を用いる場合の単位面積当たりの作業員の人数及び作業時間を示す標準的な工数)を定めて公表することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ協会(A工法の普及活動等の事業を行う団体)

2 相談の要旨

(1)X協会は,コンクリート構造物の補修・補強のための工法であるA工法の普及活動等を行う任意団体である。X協会の会員は,建築,土木等の分野における補修・補強工事等の施工業者及び設計業者であり,会員のほとんどが中小の事業者である。

(2)ア コンクリート構造物の補修・補強に係る工法としては,広く普及している標準的な工法が存在するが,A工法は,標準的な工法と比べて,作業効率が高いという特徴がある。A工法については,主に,X協会の会員の施工業者が行っている。
  イ A工法については,建築工事の分野では一定の施工実績があるものの,建築工事における需要は頭打ちになっており,これ以上の普及は余り期待できない。このため,X協会では,現時点では施工実績がほとんどない土木工事(高速道路,橋等の補強)の分野に,A工法の普及活動の範囲を広げることとした。
    ウ コンクリート構造物関連の土木工事(以下「特定土木工事」という。)については国,地方公共団体等による入札案件が多いところ,当該入札案件では,多くの場合,設計業者による設計の入札(以下「設計入札」という。)と,当該設計を実現するための施工業者による入札(以下「工事入札」という。)の二段階の入札が行われており,A工法が工事入札で採用されるためには,設計入札の結果A工法が採用される必要がある。
    そして,設計入札の結果A工法が採用されるようにするためには,設計業者において,技術面の検討だけでなく,A工法を採用した場合の標準的な工事価格を算出できるようにする必要がある。

(3)そこで,X協会は,特定土木工事におけるA工法の標準施工歩掛(以下「本件標準施工歩掛」という。)を作成し,ウェブサイト等で公表することを検討している。本件標準施工歩掛とは,特定土木工事でA工法を用いる場合に,単位面積を何人で作業すると何時間掛かるかを示す標準的な工数である。本件標準施工歩掛については,主に,X協会の会員の設計業者が設計入札で用いることを想定しているが,会員の施工業者が工事入札で用いることもあり得る。
  本件標準施工歩掛については,X協会の事務局が会員の施工業者から特定土木工事でのA工法に必要となる標準的な作業員の人数及び作業時間のデータを収集して集計し,その平均値を用いる。
  X協会の事務局が収集した個々の施工業者のデータについては,会員に対して開示しない。また,会員の施工業者は,データの提出に当たって会員間での情報交換を行わない。
  本件標準施工歩掛に記載する内容については,作業員の人数及び作業時間のみとする。入札に当たって積算価格の算定の要素となる作業員の工賃,原材料の調達価格,原材料の使用量,原材料のロスの割合,各種経費等(以下,これらの要素を「工数以外の要素」と総称する。)については,一切記載しない。
  このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例9概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者団体が,最低入札価格(契約の目的によっては最高入札価格),受注予定価格等又はそれらの設定の基準となるものを決定することは,官公庁における厳格な価格競争の方法による入札制度の機能を損なうものであるとともに,入札の方法により発注される商品又は役務の取引に係る競争を制限するものであり,原則として独占禁止法違反となる(独占禁止法第8条第1号又は第4号。公共入札ガイドライン第2-2⑴)。
  他方,中小企業者の団体が,構成事業者の入札一般に係る積算能力の向上に資するため,標準的な費用項目を掲げた積算方法を作成し,又は所要資材等の標準的な数量や作業量を示すこと(事業者間に積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。)は,原則として独占禁止法違反とならない(公共入札ガイドライン第2-2-4〔標準的な積算方法の作成等〕)。

(2)ア 本件取組は,主にX協会の会員である設計業者又は施工業者の入札一般に係る積算能力の向上に資するため,本件標準施工歩掛を策定・公表するものである。
    イ 特定土木工事の入札価格(積算価格)は,本件標準施工歩掛の工数だけでなく,工数以外の要素を総合的に検討して決定される。そして,工数以外の要素については,X協会の会員である設計業者や施工業者によって数値が異なるが,本件標準施工歩掛には一切記載されない。
      このため,X協会の会員が本件標準施工歩掛の工数を使用するとしても,当該工数は,特定土木工事の入札価格について共通の目安を与えることにはならない。
      なお,本件標準施工歩掛がA工法に係る積算金額の目安とならないということは,国,地方公共団体等による入札案件以外の特定土木工事についても同じである。
    ウ 加えて,X協会の事務局が収集した個々の施工業者のデータについては,会員に対して開示しない。また,本件標準施工歩掛の策定のためのデータ提出に当たっては,X協会の会員の施工業者の間で情報交換を行わない。
    エ したがって,本件取組は,A工法による特定土木工事の設計・施工に係る競争を制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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