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10 輸送用機器メーカーの団体による原産地証明のためのオンライン共通調査システムの構築

10 輸送用機器メーカーの団体による原産地証明のためのオンライン共通調査システムの構築

 輸送用機器メーカーを会員とする団体が,当該輸送用機器及びその構成部品に係る原産地証明のためにオンラインによる共通調査システムを構築することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ団体(輸送用機器Aのメーカーを会員とする団体) 

2 相談の要旨

(1)経済連携協定(以下「EPA」という。)の原産地規則に基づく原産品については,EPA税率(EPAに基づく特恵税率をいう。以下同じ。)の適用を受けることが可能である。輸入者が輸入国の税関に対してEPA税率の適用を要求するためには,輸入貨物の原産地を証明する書類を当該税関に提出する必要がある。当該書類は,所定の方法により,輸出者又は生産者が,第三者機関から取得し,又は自らが作成して,輸入者に送付する。
  本件相談は,輸出側における当該原産品の原産地証明に係る取組に関するものである。

(2)X団体は,輸送用機器Aのメーカーを会員とする団体である。我が国における輸送用機器Aのメーカーのほとんどが,X団体の会員となっている。

(3)ア 輸送用機器Aの完成品の原産地を証明するためには輸送用機器Aを構成する部品(以下「本件構成品」という。)についても原産地証明を行う必要があるところ,本件構成品の数は,非常に多い。また,輸送用機器Aに係る製造業は,第3階層の部品を組み合わせて第2階層の部品を製造し,第2階層の部品を組み合わせて第1階層の部品を製造し,第1階層の部品を組み合わせて完成品を製造するというように,多層構造を形成している。
  イ 本件構成品のメーカーに対して寄せられる原産地証明の依頼は,依頼元によって調査項目,書式等が区々となっており,当該メーカーは数多くのパターンの依頼に対応せざるを得ず,原産地証明の標準化・習熟化を図ることができていない状況にある。
  ウ 新規発効した日欧EPA,TPP11等により,本件構成品のメーカーに対して寄せられる原産地証明に係る依頼の件数は,今後大幅に増加することが見込まれており,X団体の会員からX団体に対して,原産地証明に関する業務の効率化に共同して取り組む必要がある旨の問題提起がされている。

(4)そこで,X団体は,本件構成品のメーカーにおける原産地証明に係る精度の向上及び工数低減を図ることを目的として,原産地証明に係るオンラインでの共通調査システム(以下「共通調査システム」という。)を構築することを検討している。共通調査システムの概要及び運用方法は,次のとおりである。
  ア 共通調査システムについては,X団体の会員・非会員であるか,また,会員の取引先であるか否かを問わず,全ての輸送用機器Aのメーカー及び本件構成品のメーカーが利用することができる。また,X団体の会員が共通調査システムを利用するか否かは,任意である。
   なお,共通調査システムの利用料については,調査を依頼する側が支払う仕組みとなっており,依頼を受ける側の本件構成品のメーカーが金銭的な負担を負うことはない。
  イ 共通調査システムは,インターネット接続環境があれば,誰でも利用可能である。共通調査システムの利用条件が利用者によって異なることはない。
  ウ 共通調査システムを通じて調査を依頼された本件構成品のメーカーは,原産地基準(EPA税率の適用を受けることができる原産品と認められるための基準をいう。)を満たすことを証明するため,調査対象の部品の価格に関する情報を回答する場合がある。当該情報については,共通調査システムの利用者間で共有されないように,遮断措置を講じる。
    また,X団体は,システム開発業者に対して共通調査システムの構築を委託するものの,共通調査システムの運営には関与しない。
  このようなX団体の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例10概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)独占禁止法第8条は,事業者団体が構成事業者の機能又は活動を不当に制限する行為(同条第4号)を禁止している。事業者団体が構成事業者の事業活動に関して制限を加えて公正かつ自由な競争を阻害することが,一般的に同号に該当する。
  事業者団体が生産・流通の合理化等を図るために商品規格の標準化に係る自主的な基準を設定する行為については,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
  一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な商品の開発・供給等に係る競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある。
  この競争阻害性の有無の判断については
・ 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
及び
・ 事業者間で不当に差別的なものではないか
の判断基準に照らし
・ 社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
の要素を勘案しつつ,判断される。
  また,自主基準の利用・遵守については,構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって,事業者団体が自主基準の利用・遵守を構成事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライン第2-7⑵〔自主規制等,自主認証・認定等〕)。

(2)ア 本件取組は,共通調査システムの構築を通じて,輸送用機器A及び本件構成品に係る原産地証明に関する情報システムや調査依頼の様式,手順等の標準化を図るものである。
    本件構成品のメーカーにおける原産地証明に係る精度の向上と工数低減を図るために共通調査システムを構築するという本件取組は,正当な目的に基づく合理的な範囲内のものであるといえる。
  イ 共通調査システムを通じて回答された本件構成品の価格に関する情報については,共通調査システムの利用者間で共有されないように遮断措置が講じられる。このため,共通調査システムの構築は,輸送用機器A及び本件構成品の価格に関する競争に影響を与えない。
  ウ 共通調査システムについては,輸送用機器Aのメーカー及び本件構成品のメーカーは誰でも利用することができ,また,利用者によって利用条件が異なることもないため,差別的なものではない。
  エ 共通調査システムを利用するか否かについては,X団体の会員に関しても,任意とされている。
  オ 以上によれば,本件取組は,X団体の会員の機能又は活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。 

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