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11 農作物のブランド化推進団体による会員生産者に対する新品種の農作物の出荷先の制限等

11 農作物のブランド化推進団体による会員生産者に対する新品種の農作物の出荷先の制限等

 農作物の新品種のブランド化推進団体が,会員である生産者に対し,当該新品種について,専用肥料の使用及び特定の農業協同組合への全量出荷を義務付けることについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 Ⅹ協議会(農作物の新品種のブランド化推進団体) 

2 相談の要旨

(1)Ⅹ協議会は,甲地域内に主たる事務所を置き,農作物Aの新品種αのブランド化の推進を目的とする任意団体である。
  X協議会の会員は
 ア 新品種αについて種苗法(平成10年法律第83号)に基づく品種登録を受けた育成者権者Y(地方公共団体)
 イ 甲地域内の農業協同組合Z
 ウ 甲地域内に所在する農作物Aの生産者
である。
 なお,前記ウの区分に該当する会員(以下「会員生産者」という。)の数は,令和2年3月時点で数十名であり,甲地域内に所在する農作物Aの生産者全体に占める割合はごく僅かである。

(2)農作物Aについて,甲地域及びその他の地域における競争の状況をみると,農作物Aの一般品種(種苗法に基づく登録品種以外の品種をいう。以下同じ。)には一般消費者の人気が高いものも多く,生産者の取引先は,登録品種,一般品種の別にかかわらず,農作物Aの様々な品種を比較して自らが取り扱う品種を選択しており,品種間において活発な競争が行われている。
  新品種αについてはまだ生産・流通前であるところ,X協議会は,将来的に新品種αの生産量を甲地域における農作物Aの生産量全体の約4パーセントまで増加させることを目標としている。

(3)育成者権者Yは,新品種αに係る育成者権について,Ⅹ協議会の代表者との間で通常利用権の許諾に係る契約を締結した。当該契約においては,X協議会の会員が新品種αについて生産,販売等を行う権利を有するものとされている。これにより,新品種αの生産は,X協議会の会員生産者が主に行うこととなる。

(4)Ⅹ協議会は,会員生産者に対して,以下の事項を義務付けることを検討している。
 ア 新品種αの生産に際して,X協議会の会員である農業協同組合Zが販売する肥料βを使用すること。
   肥料βは,育成者権者Yと農業協同組合Zが共同開発した新品種αの専用肥料であり,現時点では,同じ品質・規格の肥料は市販されていない。
 イ 生産した新品種αの全量を農業協同組合Zに出荷すること。
     会員生産者が新品種α以外の農作物Aの品種(以下「その他の品種」という。)を生産することは自由であり,会員生産者が生産したその他の品種に係る出荷先に関しては,何ら制限しない。
   このようなX協議会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

  • 本件取組の概要図

令和元年度相談事例集事例11概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)肥料βの使用の義務付け
  ア 一般的に,農畜産物の品質を揃え,ブランド農畜産物として出荷するために,品質の均一化等に関し合理的な理由が認められる必要最小限の範囲内で,事業者団体が取り扱う農畜産物の生産方法を統一すること(使用する農薬や肥料その他の生産資材を同じ品質・規格とすること等)は,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない(農協ガイドライン第2部第2-1⑷注7参照)。
  イ 肥料βは,新品種αのために開発された専用肥料であり,新品種αの品質の向上,生産量の増大に最適となるように設計されたものである。また,現時点では,肥料βと同じ品質・規格の肥料は市販されていない。このため,新品種αの生産に当たって会員生産者に肥料βの使用を義務付けることは,合理的な理由に基づくものであり,かつ,必要最小限の範囲内の行為であるといえる。
  ウ したがって,会員生産者に対する肥料βの使用の義務付けは,独占禁止法上問題となるものではない。

(2)新品種αの全量出荷の義務付け
  ア 独占禁止法第8条第1号関係
   (ア) 事業者団体が,構成事業者に係る顧客・販路について制限し,これにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,独占禁止法第8条第1号の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-3〔顧客,販路等の制限行為〕)。
   (イ)a 新品種αについては生産・流通前であるものの,前記のとおり,農作物Aについては,品種間において活発な競争が行われている。新品種αについても,その他の品種との間に需要の代替性があり,品種間で活発な競争が行われることになると考えられる。
      また,本件取組によって農作物Aの取引に影響が生じる地理的範囲については,農作物Aの取引先が農作物Aを仕入れることが可能な地域は広範に及ぶ可能性があるものの,会員生産者の所在地や新品種αの出荷先である農業協同組合Zの地区はいずれも甲地域であるので,主として甲地域の範囲に限られると考えられる。
      以上を踏まえ,本件取組に係る一定の取引分野については,甲地域における農作物Aの販売分野と画定した。
     b 甲地域における農作物Aの販売分野に占める新品種αの流通量は,将来的にみても最大で4パーセント程度であると見込まれる。このため,新品種αの出荷先を農業協同組合Zに限定するとしても,農作物Aの販売に関する競争に与える影響は軽微である。
   (ウ) したがって,新品種αに係る農業協同組合Zへの全量出荷の義務付けは,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

 イ 独占禁止法第8条第4号関係
   (ア) 独占禁止法第8条第4号は,事業者団体が構成事業者の機能又は活動を不当に制限することを禁止している。事業者団体が構成事業者に係る顧客・販路について制限する行為については,一定の取引分野における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,市場閉鎖効果が生じるとき(注)は,同号の規定に違反する。
  (注)「市場閉鎖効果」が生じる場合とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(流通・取引慣行ガイドライン第1部-3⑵ア〔市場閉鎖効果が生じる場合〕)。
   (イ) 本件において新品種αの全量を引き受けることになるのは農業協同組合Zであるので,その競争者に関して市場閉鎖効果が生じるかどうかを検討する。
     会員生産者は,甲地域内に所在する農作物Aの生産者のごく僅かに過ぎない上に,その他の品種の生産が可能であり,その他の品種に係る出荷先については何ら制限されない。また,甲地域における農作物Aの販売分野に占める新品種αの流通量は,将来的にみても最大で4パーセント程度と見込まれている。
     このため,農業協同組合Zの競争者については,本件取組が行われた後においても,会員生産者及びX協議会の非会員の生産者からその他の品種の出荷を受けることが可能であり,農作物Aの販売市場から排除される又は農作物Aの取引機会が減少するような状態が生じるおそれは低い。
   (ウ) したがって,新品種αに係る農業協同組合Zへの全量出荷の義務付けは,会員生産者の機能又は活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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