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1 医療機器メーカーの団体による会員に対する医療機器の安定供給に関するアンケート調査の実施及び団体内での調査結果の共有

1 医療機器メーカーの団体による会員に対する医療機器の安定供給に関するアンケート調査の実施及び団体内での調査結果の共有

 医療機器メーカーを会員とする団体が,全ての会員を対象に,新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う医療機器の安定供給に係る支障の有無等に関するアンケート調査を実施し,個々の会員が特定されない形で調査結果を団体内に設置する災害対策本部に提供することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 X協会(医療機器のメーカーを会員とする団体)

2 相談の要旨

⑴X協会は,医療機器のメーカーを会員とする団体である。X協会の会員(以下「会員」という。)の数は,約250社である。
⑵ア 会員は,患者の生命維持に欠かせない医療機器のほとんどを取り扱っている(以下,会員が扱っている医療機器を「特定医療機器」という。)。会員は,特定医療機器について,海外で製造し,又は海外製の部品を使用して国内で製造し,国内の医療機関等に納品している。
 イ 会員は,平時より,特定医療機器の安定供給に支障が生じる場合には,監督官庁に対して,その旨を迅速に報告することになっている。
 ウ 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う各国におけるロックダウン,航空便の減少等により,特定医療機器の生産・輸入に支障を来すことが懸念されている。医療機関等への特定医療機器の安定供給に支障が生じる場合には,医療提供に甚大な影響を及ぼすことになる。
   そのため,特定医療機器メーカーの業界では,早急に,新型コロナウイルス感染症の感染拡大による特定医療機器の供給への影響を把握することが重要となっている。

⑶そこで,X協会は,次の取組を検討している。
 ア 新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって特定医療機器の供給に支障が生じているかどうかを確認するため,全ての会員を対象に,次のような質問を内容とするアンケート調査(以下「本件アンケート」という。)を行う。
  (ア) 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による特定医療機器の安定供給に係る支障の有無
  (イ) 支障がある特定医療機器の種類
  (ウ) 支障が生じている原因
  (エ) 支障の発生が見込まれる時期
  (オ) 特定医療機器の安定供給に向けた要望
 イ 本件アンケートに対する会員からの回答については,X協会の事務局限りという扱いで管理する。X協会の事務局は,当該回答を個々の会員が特定されない形で集計する。
   なお,X協会の事務局は,職員のみで構成されており,会員は含まれていない。
 ウ X協会の事務局は,前記イの集計結果について,監督官庁のほか,理事会社の代表者等で構成される災害対策本部に提供する。
 このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。
 

〇本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴事業者団体が,会員に関連する産業に関する市場環境,社会経済情勢等についての客観的な情報を収集し,これを構成事業者等に提供する活動は,当該産業への社会公共的な要請を的確にとらえて対応し,消費者の利便の向上を図り,また,当該産業の実態を把握・紹介する等の種々の目的から行われるものであり,このような情報活動のうち,独占禁止法上特段の問題を生じないものの範囲は広い。
 しかしながら,事業者団体の情報活動を通じて,競争関係にある事業者間において,現在又は将来の事業活動に係る価格等重要な競争手段の具体的な内容に関して,相互間での予測を可能にするような効果を生ぜしめる場合がある。このような観点から見て,構成事業者が供給する商品の数量の具体的な計画や見通し等について,構成事業者との間で情報の収集・提供を行い,又は構成事業者間の情報活動を促進する行為は,それ自体で直ちに独占禁止法違反とまでは評価されないが,独占禁止法上問題となり得るものである。
 このような情報活動を通じて構成事業者間に競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され,又はこのような情報活動が手段・方法となって競争制限行為が行われていれば,原則として独占禁止法第8条第1号(一定の取引分野における競争を実質的に制限することの禁止)又は第4号(構成事業者の機能又は活動を不当に制限することの禁止)の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-9〔情報活動〕⑵及び9-1)。

⑵ア 本件取組において,X協会は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大による特定医療機器の安定供給に係る支障の有無,支障がある特定医療機器の種類,支障が生じている原因,支障の発生が見込まれる時期等の現在又は将来における特定医療機器の供給予測に関する情報を収集し,理事会社の代表者等で構成される災害対策本部で当該情報を共有することとしている。このような情報共有が行われれば,X協会の理事会社は,ある程度,現在又は将来における市場への特定医療機器の供給に関する動向が予測できるようになると考えられる。
 イ(ア) しかしながら
    a 会員からの回答はX協会の事務局(会員は含まれない。)限りという扱いで管理され,回答結果の集計はX協会の事務局のみで行い,災害対策本部に対しては回答者の社名が特定されない形で集計された情報しか提供されないこと
    b 本件アンケートは全会員を対象に実施されるところ,会員の数は約250社と多数に上ること
    c 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が特定医療機器の製造に与える影響は会員によって区々であるところ,本件アンケートの実施に当たり,特定医療機器の安定供給に支障があるかどうかについては,定量的な基準を設けるのではなく,回答者の主観に委ねられていること
    等から,どの会員がどのような回答を行ったか,どの会員にどの程度の供給余力があるのかなどの情報については,X協会の理事会社の間で共有されることにはならない。
  (イ) また,本件アンケートでは,会員が供給する特定医療機器の価格,数量,取引先等については,調査項目に含まれていない。
  (ウ) このため,本件取組が行われても,会員間で,特定医療機器の供給の具体的な内容に関して,相互に行動が予測可能になるような効果は生じず,また,会員間で競争制限に係る共通の意思が形成されることにもならない。
 ウ したがって,本件取組は,独占禁止法第8条第1号又は第4号の規定に違反するものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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