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2 輸送用機器メーカーの団体による部品メーカーと会員との取引の状況に関する情報の収集及び会員間での共有

2 輸送用機器メーカーの団体による部品メーカーと会員との取引の状況に関する情報の収集及び会員間での共有

 輸送用機器のメーカーを会員とする団体が,部品メーカーに対する資金調達支援を行うに当たり,適切な情報遮断措置を講じた上で,当該部品メーカーから会員との取引の状況に関する情報を収集し,当該情報を会員間で共有することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X工業会(輸送用機器Aのメーカーを会員とする団体)

2 相談の要旨

⑴X工業会は,輸送用機器Aのメーカーを会員とする団体である。我が国における輸送用機器Aのメーカーのほとんどが,X工業会の会員となっている(以下,X工業会の会員である輸送用機器Aのメーカーを「会員」という。)。

⑵ア 輸送用機器Aは,多数の部品(以下「A用部品」という。)から構成されている。
 イ 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う需要の喪失等により,多くの会員の業績が悪化しており,その影響を受け,会員の取引先であるA用部品のメーカーの中には,経営の継続が困難になる者が出始めている。A用部品のメーカーには日本のものづくりに欠かせない技術・技能を保有している人材が多く存在しているところ,当該技術・技能を失うことは,我が国の輸送用機器Aの産業全体の競争力の低下につながりかねない。

⑶ア そこで,X工業会は,新型コロナウイルス感染症の流行による業績悪化の状況下におけるA用部品のメーカーの資金調達を支援するため,一定の条件を満たすA用部品のメーカーが取引銀行から融資を受ける際に,特定銀行(X工業会の取引銀行をいう。以下同じ。)にX工業会の預金を担保として保証人になってもらい,当該融資を迅速・円滑に受けることができるようにすること(以下「本件資金調達支援」という。)を検討している。

   本件資金調達支援の対象となるA用部品のメーカーとは,次の条件を全て満たす者である。
  (ア) 売上げの全てが特定の会員向けではないこと。
  (イ) 日本のものづくりに欠かせない技術・技能や商品を保有していること。
  (ウ) 民間金融機関や公的な金融サポートを受けてもなお,運転資金の調達が困難であること。
   X工業会は,A用部品のメーカーからの保証の依頼を受け,本件資金調達支援を行う(以下,この依頼を行ったA用部品のメーカーを「申請部品メーカー」という。)。
 イ X工業会は,次の方法により,申請部品メーカーが前記アの条件(以下「支援の条件」という。)を満たすか否かの審査を行う予定である。
  (ア) X工業会内に,会員の従業員及びX工業会の職員で組織する資金調達の支援チーム(以下「支援チーム」という。)を設置する(以下,当該従業員を「支援チーム内の会員従業員」という。)。
  (イ) 申請部品メーカーは,支援チームに対し,会社概要,融資に関する必要額,保有技術等に関する情報のほか,輸送用機器Aの製造業界内での主要取引先,当該主要取引先ごとの売上比率,主要取扱商品等,当該申請部品メーカーと会員との間のA用部品に係る取引の状況に関する情報を提供する。
     支援チームは,申請部品メーカーから提供された情報を基に,当該申請部品メーカーが支援の条件を満たしているかどうかを審査する。
  (ウ) 支援チームは,同時に,X工業会の内部組織であるY委員会の委員(以下「Y委員」という。)に対して個別に意見照会を行う。Y委員会は,A用部品の安定調達に向けた取組を行う委員会であり,Y委員に就任しているのは,各会員の調達担当役員等である。
     支援チームは,申請部品メーカーから提供された情報を基に,当該申請部品メーカーと取引のある全ての会員のY委員に対し,会員各社の輸送用機器Aの供給への影響の有無,代替部品の調達の可能性等について照会し,当該Y委員はこれに回答する。
  (エ) X工業会は,前記(イ)の審査及び前記(ウ)の意見照会に際して,次のような情報遮断措置を講ずる。
    a 支援チーム内の会員従業員については,A用部品の調達担当者は加わることができないようにする。また,支援チーム内の会員従業員には,本件取組を通じて得た情報の持出しの禁止,目的外使用の禁止等の秘密保持を徹底することを誓約させる。
    b 申請部品メーカーから提供された情報については,支援チーム内のみで取り扱う。また,Y委員に対して前記(ウ)の個別の意見照会を行う際には,各Y委員に提供する情報には,競合他社に関するものが含まれないようにする。
 このようなX工業会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。

 

〇本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴事業者団体の情報活動を通じて,競争関係にある事業者間において,現在又は将来の事業活動に係る価格等重要な競争手段の具体的な内容に関して,相互間での予測を可能にするような効果を生ぜしめる場合がある。このような観点から見て,構成事業者が供給を受ける商品の数量の具体的な計画や見通し等,各構成事業者の現在又は将来の事業活動における重要な競争手段に具体的に関係する内容の情報について構成事業者間の情報交換を促進する行為は,それ自体で直ちに独占禁止法違反とまでは評価されないものの,独占禁止法上問題となり得るものである。
 このような情報活動を通じて構成事業者間に競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され,又はこのような情報活動が手段・方法となって競争制限行為が行われていれば,原則として独占禁止法第8条第1号(一定の取引分野における競争を実質的に制限することの禁止)又は第4号(構成事業者の機能又は活動を不当に制限することの禁止)の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-9〔情報活動〕⑵及び9-1)。

⑵ア 本件取組では,支援チームが申請部品メーカーから提供を受ける情報の中に,当該申請部品メーカーと会員の間におけるA用部品に係る取引の状況に関する情報(輸送用機器Aの製造業界内の主要取引先,その売上比率,主要取扱商品等)が含まれており,当該情報は,支援チーム内の会員従業員の間で共有される。そのため,会員間で,A用部品の調達市場における各会員の行動に関する透明性が高まる可能性がある。
   また,各Y委員から支援チームに対する回答には,会員各社の輸送用機器Aの供給への影響の有無,代替部品の調達の可能性等に関する情報が含まれており,当該情報が支援チーム内の会員従業員間で共有される。そのため,申請部品メーカーの経営状況が会員各社の輸送用機器Aの供給にどのような影響を生じさせるのかを会員間で具体的に予測できるようになり,輸送用機器Aの製造販売分野において,会員間で協調的な行動が取られるようになる可能性もある。
 イ もっとも,本件取組では,次のような方法で,情報遮断措置を講ずることとされている。
  (ア) 支援チーム内の会員従業員については,A用部品の調達担当者は加わることができないようにする。また,支援チーム内の会員従業員には,本件取組を通じて得た情報の持出しの禁止,目的外使用の禁止等の秘密保持を徹底することを誓約させる。
  (イ) 申請部品メーカーから提供された情報については,支援チームのみで取り扱う。また,各Y委員に対して輸送用機器Aの供給に関する影響の有無等を照会する際には,各Y委員に提供する情報に競合他社に関するものが含まれないようにする。
 ウ このため,本件取組が実施されても,A用部品の調達市場や輸送用機器Aの製造販売市場において,会員相互間での行動予測を可能にするような効果が生じることにはならないので,このことにより会員間に競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成されるおそれはない。また,本件取組が何らかの競争制限行為の手段・方法となっているわけでもない。
   したがって,本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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