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4 分析機器の消耗品として非純正品が使用された場合の分析機器の動作に係る仕様変更

4 分析機器の消耗品として非純正品が使用された場合の分析機器の動作に係る仕様変更

 分析機器のメーカーが,自らが製造販売する分析機器に使用する自社製の消耗品にICチップを搭載するとともに,当該分析機器に当該ICチップの認証機能を追加する行為について,当該分析機器に他社製の消耗品が用いられた場合に分析値が表示されないようにすることは独占禁止法上問題となるおそれがあるが,当該場合に分析値を表示させた上で「保証対象外」等の表示を行うにとどめることは独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(分析機器メーカー)

2 相談の要旨

⑴X社は,分析機器甲のメーカーである。我が国の分析機器甲の製造販売分野におけるX社の市場シェアは,約60パーセントである。

⑵ア X社が製造販売する分析機器甲(以下「X社製分析機器甲」という。)を使用するためには,専用の消耗品Aが必要である(以下,当該消耗品Aを「X社製甲用の消耗品A」という。)。X社製甲用の消耗品Aについては,X社が製造販売しているほか,複数の独立系メーカー(分析機器甲を製造していない,X社製甲用の消耗品Aのメーカーをいう。以下同じ。)も製造販売している。
   独立系メーカーの供給するX社製甲用の消耗品A(以下「非純正品」という。)の市場価格は,X社の供給するX社製甲用の消耗品A(以下「純正品」という。)の市場価格を25パーセントほど下回っている。
   X社製甲用の消耗品Aの製造販売市場におけるX社のシェアは約90パーセント,独立系メーカーのシェアは約10パーセントであるところ,近年,独立系メーカーのシェアは増加傾向にある。
 イ X社は,X社製分析機器甲についてX社製甲ユーザー(X社製分析機器甲の購入者をいう。以下同じ。)に対し品質・性能を保証しているが,非純正品が用いられた場合には保証の対象外としている。
   また,X社は,X社製分析機器甲に非純正品が使用された場合の分析精度の検証は行っていない。
   X社製甲ユーザーは,X社製分析機器甲に非純正品を使用した場合にはX社による保証の対象外となること及び当該場合の分析精度の検証が行われていないことについて,ある程度承知している。

⑶ア X社は,これまでに,非純正品を用いてX社製分析機器甲を使用したX社製甲ユーザーから,部品の発熱,分析値の異常等の不具合について,複数の報告を受けている。
 イ 非純正品に係る前記アの不具合の発生率等は不明であるものの,当該不具合の発生を受け,X社は,X社製分析機器甲の安全性及び分析精度の確保のため,純正品にICチップを搭載し,当該ICチップを認証する機能をX社製分析機器甲に追加することによって,純正品が使用された場合と非純正品が使用された場合とでX社製分析機器甲の動作に差異を設けることを検討している。X社が検討している動作の差異とは,次の2つである。
   (ア) 純正品が使用された場合にのみX社製分析機器甲のディスプレイ上に分析値が表示されるようにし,非純正品が使用された場合には分析値が表示されないようにする。すなわち,非純正品については,X社製分析機器甲に使用することができないようにする(以下,この取組を「第1の取組」という。)。
   (イ) 非純正品が使用された場合には,X社製分析機器甲のディスプレイ上に,分析値を表示させた上で,「保証対象外」・「精度未検証」という文言を表示させる(以下,この取組を「第2の取組」という。)。
   なお,X社は,純正品に搭載するICチップを他の事業者に販売することはせず,また,その入力情報も公開しない。
 このようなX社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。
 

〇本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

抱き合わせ販売等及び競争者に対する取引妨害
 ア ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が,取引の相手方に対し,当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって,従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には(注),不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕)。
 
  (注)「市場閉鎖効果」が生じる場合とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(流通・取引慣行ガイドライン第1部-3⑵ア〔市場閉鎖効果が生じる場合〕)。
 
   当該商品の供給に併せて他の商品を「購入させること」に当たるか否かは,ある商品の供給を受けるに際し客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるか否かによって判断される。
   また,ある商品を購入した後に必要となる補完的商品に係る市場(いわゆるアフターマーケット)において特定の商品を購入させる行為も,抱き合わせ販売に含まれる(流通・取引慣行ガイドライン第1部第2-7〔抱き合わせ販売〕)。
 イ 事業者が自己と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について,契約の成立の阻止,契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず,その取引を不当に妨害することは,不公正な取引方法(一般指定第14項〔競争者に対する取引妨害〕)に該当し,独占禁止法上問題となる(独占禁止法第19条)。同項の「不当に」には「競争手段の不公正さ」又は「自由競争の減殺」という面があるところ,純正品と非純正品間の競争が問題となっている本件取組については,主に「自由競争の減殺」(事業者相互間の自由な競争が妨げられるおそれがあること又は事業者がその競争に参加することが妨げられるおそれがあること)が生じるか否かという観点から検討を行うことが適当である。
 ウ なお,本件取組に関していえば,その実施に当たって技術上の必要性等の合理的理由があり,かつ,その必要性等の範囲を超えない場合には,抱き合わせ販売等又は競争者に対する取引妨害として独占禁止法上問題となるものではないと考えられる(「キヤノン株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について」の別紙〔平成16年10月21日公正取引委員会〕)。

第1の取組について
 ア 第1の取組は,X社製分析機器甲に認証機能を追加し,純正品が使用された場合にのみ分析値が表示されるようにするというものであり,技術上の抱き合わせというべき行為である。X社製甲ユーザーは,X社製分析機器甲を使用するためには,純正品を購入するほかない。そのため,第1の取組が行われれば,非純正品の取引が妨げられることとなり,X社製甲用の消耗品Aの市場において,非純正品の排除効果が生ずる。
 イ X社はX社製甲ユーザーに対してX社製分析機器甲の品質・性能を保証しているところ,本件取組は,X社製分析機器甲の安全性や分析精度の確保を理由に行われるものであるので,この理由は合理的なものであると認められる。
   しかしながら,X社製甲用の消耗品Aの市場における非純正品のシェアは増加傾向にあることから,多くの非純正品ユーザーは,非純正品を特段の支障なく使用することができていると推測される。にもかかわらず,第1の取組では,非純正品を一律に使用できなくすることによって,全ての非純正品が当該市場から排除されることになり,この競争制限効果は極めて大きい。
 ウ したがって,第1の取組については,抱き合わせ販売等又は競争者に対する取引妨害として独占禁止法上問題となるおそれがある。

第2の取組について
 第2の取組は,X社製分析機器甲に非純正品が使用された場合に,分析値と併せて「保証対象外」・「精度未検証」の文言をディスプレイ上に表示させるものである。X社がX社製分析機器甲に非純正品が使用された場合について品質・性能の保証の対象外とすること,また,X社製分析機器甲の製造に際して非純正品の分析精度の検証を行っていないことについては,特段不合理であるとはいえない。
 第2の取組では,これらの表示がなされるだけで,非純正品をX社製分析機甲に使用することは可能である。
 また,X社製甲ユーザーは,これらの表示がなされなくても,X社製分析機器甲に非純正品を使用した場合にはX社による保証の対象外となること及び当該場合の分析精度の検証が行われていないことについて,ある程度承知している。
 このため,X社製分析機器甲に非純正品が使用された際にこれらの表示が行われるとしても,X社製甲ユーザーが直ちに非純正品の購入を控えるようになるとは考えにくく,X社製甲用の消耗品Aの市場において非純正品を排除する効果は小さいと考えられる。
 したがって,第2の取組については,抱き合わせ販売等又は競争者に対する取引妨害として独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 第1の取組は,独占禁止法上問題となるおそれがあるが,第2の取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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