ホーム >独占禁止法 >相談事例集 >独占禁止法に関する相談事例集(令和2年度)について(令和2年度・目次) >

5 工作機械に係る消耗品のメーカーによる競争者に対する半製品の全量供給

5 工作機械に係る消耗品のメーカーによる競争者に対する半製品の全量供給

 工作機械に係る消耗品のメーカーが,競争者と業務提携し,当該競争者が当該消耗品の製造に使用する半製品の全量を供給することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 X社(工作機械に係る消耗品のメーカー)

2 相談の要旨

⑴X社及びY社の2社(以下「2社」という。)は,いずれも,工作機械甲に係る消耗品Aのメーカーである。消耗品Aは,工作機械甲に取り付けて使用するものである。

⑵ア 消耗品Aの需要者は,工作機械甲を用いて様々な材料の加工を行う事業者(以下「特定加工業者」という。)である。
 イ 消耗品Aは,商品a1,商品a2,商品a3及び商品a4の4種類に大別される(以下,これらを「4種類の商品」と総称する。)。
   4種類の商品は,それぞれ,加工することができる材料の範囲,加工の精度等が異なる。このため,特定加工業者は,加工する材料,加工の際に求められる品質等に応じて,4種類の商品の中から購入する商品を選択している。
   4種類の商品の価格は,種類によって大きく異なっており,商品a1の価格を基準とした場合,商品a2の価格は約3分の1,商品a3の価格は約3倍,商品a4の価格は約7倍である。
 ウ 消耗品Aのメーカーの中には,4種類の商品のうち,複数の種類の商品を製造している者が存在する。
   2社は,いずれも,商品a1を製造している。2社の商品a1に係る市場シェアは,X社が約60パーセントであり,Y社が約25パーセントである。
 エ 商品a1は,第1工程及び第2工程の2つの工程を経て完成する。
   第1工程が完了して第2工程に投入される半製品を,「特定半製品」という。2社の場合,商品a1の販売価格に占める特定半製品の製造原価は,約15パーセントである。
   商品a1の場合,第2工程における特定半製品の加工の仕方によって完成品の形状や性能が大きく異なっており,当該加工によって商品の差別化が図られている。
 オ 商品a1について,日本国内において輸送上の制約はなく,地域によって価格が異なることもない。また,商品a1のメーカーは,日本全国において,需要者である特定加工業者に商品a1を販売しており,特定加工業者も商品a1のメーカーを地理的に区別することなく調達を行っている。

⑶Y社においては,特定半製品の製造設備が老朽化しているが,当該製造設備を更新しようとすると,過大なコストが必要になる。
 そこで,2社は,商品a1の製造に関して,次の方法による業務提携を行うことを計画している。
 ア Y社は,特定半製品の製造設備を更新せず,自社の商品a1の製造に必要な特定半製品の全量をX社から購入する。
   なお,X社は,特定半製品の製造設備の稼働状況に余裕があるため,Y社に対して特定半製品を販売しても,自らの商品a1の製造数量に影響は生じない。
 イ 2社は,前記アの業務提携の開始後においても,それぞれ独自に商品a1を販売し,互いに販売価格,販売数量,販売先等には一切関与しない。
 このような2社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。
 

〇本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴ア 事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
 イ 生産提携等の業務提携は,事業活動の効率化等を目的に行われるものであって,多くの場合は競争促進的な効果が期待されるものと考えられる。一方で,その態様によっては,競争制限的な効果を持つ場合もあり得る。業務提携が競争制限的な効果を持つか否かに関しては,次のような考え方に即して判断することが適当である[1]
  (ア) 水平的な業務提携(同一の一定の取引分野において競争関係にある事業者間の業務提携をいう。以下同じ。)の場合,業務提携が競争に与える影響を評価する際は,まず,提携当事者間において事業活動がどの程度一体化しているかに着目して検討する。具体的には,水平的な業務提携では,提携当事者が競争関係にあるため,業務提携によって提携当事者間の競争がどの程度制限されるかを検討する。
     提携当事者間の競争の制限の程度について評価する際には,主に以下の判断要素を総合的に勘案する。
    a 重要な競争手段に係る意思決定の一体化
     生産・販売等の多段階で包括的に提携する場合など,業務提携の内容として,生産数量や価格といった重要な競争手段に係る意思決定の一体化が図られている場合には,提携当事者間での競争の余地が減殺される可能性がある。
       また,業務提携により提携当事者双方のコスト構造が共通化されると,提携当事者間において,コスト削減という点で,重要な競争手段に係る意思決定が一体化し得る。
    b 協調的な行動を助長する可能性
       提携当事者間で情報交換・共有が行われると,通常,協調的な行動が助長されやすくなる。
       また,競争者の行動を予測しやすい市場において,各提携当事者のコスト構造が共通化されると,同様に,通常,協調的な行動が助長されやすくなる。
    c 実施期間など業務提携の広がり
       業務提携の期間や提携当事者に制限を課す期間が長期にわたるものか短期で終了するものかといった点,また,対象商品等のうち実際に提携対象となるものの割合や,提携の対象となる地理的範囲も考慮される。
     業務提携によって提携当事者間の競争が制限される場合には,業務提携が市場全体に与える影響について評価することとなる。
  (イ) 業務提携によって提携当事者間の競争が制限されない場合であっても,業務提携の実施に伴い,提携当事者間でそれぞれの事業活動を一方的又は相互に制約・拘束する取決めが行われるときは,当該取決めも独占禁止法上の問題となり得る。
 


[1] 公正取引委員会競争政策研究センター「業務提携に関する検討会報告書」(令和元年7月10日)27~33頁参照。
 

⑵ア(ア) 消耗品Aの需要者である特定加工業者は,加工する材料,加工の際に求められる品質等に応じて,4種類の商品の中から購入する商品を選択している。また,4種類の商品の価格は,種類によって大きく異なっている。このため,4種類の商品の間には,需要の代替性は認められない。
      4種類の商品の間には供給の代替性が認められる可能性があり,供給の代替性を踏まえて一定の取引分野に係る商品範囲を画定することも考えられる。
      しかし,本件取組の対象は商品a1のみであるので,競争への影響をより慎重に検討する観点から,「商品a1」を商品範囲として画定した。
  (イ) 商品a1について,日本国内において輸送上の制約はなく,地域によって価格が異なることもない。また,商品a1のメーカーは,日本全国において,需要者である特定加工業者に商品a1を販売しており,特定加工業者も商品a1のメーカーを地理的に区別することなく調達を行っている。
     以上のことから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。
 イ(ア) 2社は,本件取組の開始後においても,それぞれ独自に商品a1を販売し,互いに販売価格,販売数量,販売先等には一切関与しないため,本件取組によって商品a1に係る2社の間の競争が減殺されることにはならない。
     また,本件取組によって2社の間の商品a1の製造における特定半製品に関する費用が共通化するものの,その割合は約15パーセント程度にすぎない上に,商品a1の場合,第2工程における特定半製品の加工の仕方によって完成品の形状や性能が大きく異なっており,当該加工によって商品の差別化が図られているため,コスト削減の面での当該費用の共通化に係る競争手段としての重要性は,それほど高いものではないと認められる。
     このため,本件取組が行われても,2社の間で商品a1の重要な競争手段に係る意思決定の一体化が図られることにはならない。
  (イ) 本件取組は,特定半製品の製造コストに関する情報及びY社が購入する特定半製品の数量に関する情報が2社の間で共有されることになるので,商品a1の製造販売に関して,2社が相互の行動を予測しやすくなるという面がある。
     しかし,本件取組の対象となるのは,商品a1の製造工程のうちの特定半製品の製造に係る第1工程のみであり,第2工程においては,2社が別々に製造を行うこととされている。そして,商品a1の場合,第2工程での加工による商品差別化の程度が大きく,品質等の販売条件について2社の間で競争する余地が大きい。
     このため,本件取組が行われても,2社が互いに協調して行動するようにはならないと認められる。
  (ウ) 以上のことからすると,本件取組が行われても,2社の間で商品a1の製造販売を巡る競争は制限されない。
 ウ また,本件取組においては,2社の間でそれぞれの事業活動を一方的又は相互に制約・拘束する取決めは,特段行われない。
 エ したがって,本件取組は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。 

ページトップへ