6 事務用機器メーカー15社による共同配送

 事務用機器メーカー15社が,各地に配送拠点を設置し,当該配送拠点から需要者の指定納品場所までの事務用機器の配送を共同して行うことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 X協会(事務用機器メーカー等を会員とする団体)

2 相談の要旨

⑴X協会は,事務用機器メーカー等を会員とする団体である。
事務用機器Aメーカー(系列の販売業者を含む。以下同じ。)である15社(以下「15社」という。)は,日本全国において事務用機器Aを製造販売している。事務用機器Aの製造販売市場における15社のシェアは,ほぼ100パーセントである。15社は,いずれも,X協会の会員である。

⑵ア 事務用機器Aは,主にオフィスで使用されるものであり,日本国内において輸送上の制約はなく,地域によって価格が異なることはない。また,事務用機器Aメーカーは,日本全国の需要者に対して事務用機器Aを販売しており,需要者も事務用機器Aメーカーを地理的に区別することなく購入している。
   15社は事務用機器Aを各社の在庫倉庫から需要者が指定する場所(オフィス等。以下「指定納品場所」という。)に配送している。
   15社は,在庫倉庫から指定納品場所への事務用機器Aの配送について,自ら又はトラック運送業(一般貨物自動車運送事業をいう。以下同じ。)を営む者(以下「トラック運送業者」という。)に委託して行っている。事務用機器Aは,保管や配送に特別な取扱いを要するものではなく,事務用機器Aの配送に利用されるトラックはその他の多種多様な商品の配送にも広く利用されているので,トラック運送業に係る運送サービス(以下「トラック運送サービス」という。)の調達市場における15社の市場シェアは,いずれの在庫倉庫周辺の地域に関しても,それほど高くはないと推測される。
 イ(ア) 事務用機器Aの物流に関しては,需要者からの発注が四半期の各期末に集中する上に,需要者から指定される納品の時刻も特定の時間に集中することが多い。そのため,地方への配送,閑散期の配送等では,トラックへの積載率が低くなり,物流効率が悪くなっている。
  (イ) 15社は,これまでは,前記(ア)の課題がある中でも,事務用機器Aの物流に関する需要者の要求に対応することが可能であった。
     しかしながら,近年では,物流業界の人手不足やトラック業界の働き方改革により,従前の配送サービスを維持することが極めて困難な状況にあるため,事務用機器Aの物流の効率化,合理化を図ることが15社共通の喫緊の課題となっている。

⑶そこで,15社は,事務用機器Aの物流の一部を共同化することを検討している。共同化の方法は,次のとおりである。
 ア 15社の担当者によって構成されるX協会内の委員会(以下「委員会」という。)は,本件配送拠点(一定の地域内に所在する指定納品場所への事務用機器Aの配送の拠点をいう。以下同じ。)の設置を決定する。本件配送拠点の数は,段階的に増やし,最終的には日本国内の広い地域をカバーするようにする。本件配送拠点が管轄する地域は,重複しない。
   15社は,事務用機器Aについて,各社の製造拠点から本件配送拠点までの輸送に関してはそれぞれで行い,本件配送拠点から指定納品場所までの配送に関しては共同して行う。この配送の共同化によって15社間で共通化する費用が各社の事務用機器Aの供給に要する費用全体に占める割合は,僅少である。
 イ(ア) 委員会は,本件配送拠点ごとに,地域内における事務用機器Aの配送を委託するトラック運送業者1社(以下「特定トラック運送業者」という。)を決定する。
  (イ) 15社は,個別に,特定トラック運送業者に対し,過去の一定期間における本件配送拠点の地域内での事務用機器Aの配送数量を連絡する。特定トラック運送業者は,15社の当該配送数量の合計(以下「地域内配送総数」という。)のみを委員会に連絡する。
  (ウ) 委員会と特定トラック運送業者は,地域内配送総数を基に,本件配送拠点における事務用機器Aの配送に係る料金等の取引条件について交渉し,決定する。
      15社は,委員会と特定トラック運送業者の間で決定された取引条件で,それぞれ,特定トラック運送業者と事務用機器Aの配送に係る契約を締結する。また,取引先,配送数量,指定納品場所等の当該配送に必要な情報を個別に特定トラック運送業者に伝達する。これらの情報は,15社の間では共有されない。
 ウ 委員会を構成する15社の担当者は必要最小限の人数にとどめ,各社の社内において当該担当者と営業担当者等との間の情報遮断措置を講じる。また,15社は,それぞれ,特定トラック運送業者との間で秘密保持契約を締結し,特定トラック運送業者を介して各社の情報が他社に流れることのないようにする。
 このような15社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。
 

〇本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴ア 事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
 イ 水平的な業務提携(同一の一定の取引分野において競争関係にある事業者間の業務提携をいう。)では,提携当事者が競争関係にあるため,業務提携によって提携当事者間の競争がどの程度制限されるのかを検討することとなる。水平的な物流提携の場合の競争への影響の評価に関しては,次のような考え方に即して判断することが適当である[1]
  (ア) 運送サービスの調達市場における競争への影響
     物流提携時に調達条件(配送料金,配送量,配送先等)が提携当事者間で一体的に決定される場合も多いが,この点をもって直ちに問題となるものではなく,運送サービスの調達市場における提携当事者のシェアが高まるなどして当該市場における市場支配力が生じる場合に,調達カルテルや他の調達者の排除の問題が生じ得る。その際,当該運送サービスが提携当事者以外にも広く利用されているなど,提携当事者のシェアが高くない場合には,運送サービスの調達市場に与える影響は軽微であると考えられる。
  (イ) 商品の販売市場における競争への影響
     提携当事者間の競争に与える影響は主に協調的な行動の可能性の点から評価され,提携当事者間の競争が制限される場合は市場全体に与える影響も評価される。
     提携当事者間の協調的な行動の可能性については,商品の配送先,配送量等の競争上重要な情報が販売部門等に共有されないよう,情報遮断措置等を講ずる必要がある。また,コストの共通化割合が高くなり,提携当事者の行動が予測しやすくなる場合は,協調的な行動が助長されやすくなる。
 


[1] 公正取引委員会競争政策研究センター「業務提携に関する検討会報告書」(令和元年7月10日)別紙5-4参照。


⑵ア まず,本件取組がトラック運送サービスの調達市場における競争に与える影響について検討する。
  (ア) 本件取組は,本件配送拠点ごとに特定トラック運送業者を決定するものであるので,本件配送拠点ごとのトラック運送サービスの調達市場(以下「本件調達市場」という。)を一定の取引分野として画定した。
  (イ) 本件取組によって,本件調達市場における15社合計の市場シェアは,各社単独の場合よりも高まることになる。
     しかしながら,事務用機器Aは,保管や配送に特別な取扱いを要するものではなく,事務用機器Aの配送に利用されるトラックはその他の多種多様な商品の配送にも広く利用されているので,本件調達市場における15社の市場シェアは,いずれの本件配送拠点の地域に関しても,それほど高くはないと推測される。
     このため,いずれの本件配送拠点に関しても,本件取組が本件調達市場に与える影響は軽微であり,調達カルテルや他の調達者の排除の問題は生じないと考えられる。
 イ 次に,本件取組が事務用機器Aの販売市場における競争に与える影響について検討する。
  (ア)a 事務用機器Aとの間で需要の代替性又は供給の代替性のある商品が存在する可能性はあるものの,本件取組は事務用機器Aのみを対象としているので,競争への影響をより慎重に検討する観点から,「事務用機器A」を商品範囲として画定した。
    b 事務用機器Aについて,日本国内において輸送上の制約はなく,地域によって価格が異なることはない。また,事務用機器Aメーカーは,日本全国の需要者に対して事務用機器Aを販売しており,需要者も事務用機器Aメーカーを地理的に区別することなく購入している。このため,「日本全国」を地理的範囲として画定した。
  (イ)a 15社が本件取組を通じて共有する情報は,本件配送拠点ごとの地域内配送総数のみである。各社の事務用機器Aに係る取引先,配送数量等の情報については共有しない。また,委員会を構成する15社の担当者は必要最小限の人数にとどめ,各社の社内において当該担当者と営業担当者等との間の情報遮断措置を講じる。さらに,15社は,それぞれ,特定トラック運送業者との間で秘密保持契約を締結し,特定トラック運送業者を介して各社の情報が他社に流れることのないようにする。
    b 本件取組によって15社間で事務用機器Aに関する費用の一部が共通化するものの,共通化割合は僅少であるので,本件取組を通じて15社の間で協調的な行動が助長されやすくなることはないと認められる。
  (ウ) このため,本件取組が行われても,15社の間で事務用機器Aの販売に関する競争が制限されることにはならないといえる。
 ウ 以上によれば,本件取組は,事務用機器Aに係る運送サービスの調達市場及び商品の販売市場のいずれに関しても,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

    本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。 

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