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7 産業用機械メーカーによる基礎技術に係る共同研究の実施

7 産業用機械メーカーによる基礎技術に係る共同研究の実施

 産業用機械メーカー6社が,共同して,技術研究組合を設立し,産業用機械の基礎技術の研究を共同して実施することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 X社ら6社(産業用機械のメーカー)

2 相談の要旨

⑴X社ら6社(以下「6社」という。)は,いずれも,産業用機械Aのメーカーである。我が国における産業用機械Aの製造販売分野における6社の市場シェアの合計は,約80パーセントである。6社は,いずれも,技術開発力に優れている。

⑵ア 産業用機械Aは,様々な産業で使用されているほか,新規の産業での活用も注目されており,今後市場の拡大が見込まれている。
 イ 産業用機械Aの基礎技術の研究分野には未知・未解明な領域が多く,更なる裾野の拡大と研究の深化が求められており,また,研究に携わる人材の育成も急務となっている。
   しかしながら,産業用機械Aの基礎技術の研究に関しては,多額の資金を要する上に,製品化して市場への発売に成功するものは一部に限られるため,投資した資金を回収できるかどうか分からないという不確実性があり,メーカーにおいて研究に割くことができるリソースが限定的であるという課題がある。産業用機械Aに関し,産業・技術革新に係るSDGs(Sustainable Development Goals〔持続可能な開発目標〕)に則った技術革新の基盤を強化するためには,メーカー各社が基礎技術の研究分野において相互に連携し,各社が単独で行うよりも研究の規模・内容を拡大・深化することが必要になっている。

⑶そこで,6社は,産業用機械Aの基礎技術の研究を共同で実施するため,次の取組を検討している。
 ア 6社は,共同して,技術研究組合(以下「本件組合」という。)を設立する。次の要件を満たせば,6社以外の産業用機械Aのメーカーも,本件組合に参加することができる。
  (ア) 国内に産業用機械Aの生産拠点を置いていること。
  (イ) 共同研究のパートナーたり得る相応の技術力を有していること。
 イ 本件組合における共同研究は,特定の製品の開発を対象とするものではなく,産業用機械Aの基礎技術の研究に関するものとし,共同研究の範囲は,技術α,技術β及び技術γの3項目とする。当該3項目については,大学等と連携して研究を進める。
 ウ 共同研究の実施期間は5年間とし,期間終了の後,本件組合は解散する。
 エ 共同研究によって得られた成果については,6社は無償で利用することができる。また,6社以外の産業用機械Aメーカーも,無償又は合理的な対価で当該成果を利用することができる。
 産業用機械Aの基礎技術に係る研究は,6社のほか,海外の産業用機械Aのメーカー,国内外の大学等でも行うことができる。そのため,産業用機械Aの基礎技術に係る顕在的又は潜在的な研究開発主体の数は,相当な数に上ると考えられる。
 なお,6社は,本件組合における研究の成果である技術を利用した研究開発の制限や,成果に基づく産業用機械Aの生産・販売地域,販売数量,販売先,販売価格の制限等を取り決めることはしない。
 このような6社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題となるか。
 

〇本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴ア 研究開発の共同化によって参加者間で研究開発活動が制限され,技術の市場(以下「技術市場」という。)又は当該技術を用いた製品の市場(以下「製品市場」という。)における競争が実質的に制限されるおそれがある場合には,その研究開発の共同化は独占禁止法第3条(不当な取引制限)の問題となり得る(共同研究開発ガイドライン第1-1〔基本的考え方〕)。
   研究開発の共同化の問題については,個々の事案について,競争促進的効果を考慮しつつ,技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるか否かによって判断されるが,その際には
  ・ 参加者の数,市場シェア等
  ・ 研究の性格
  ・ 共同化の必要性
  ・ 対象範囲,期間等
  が総合的に勘案されることとなる(共同研究開発ガイドライン第1-2〔判断に当たっての考慮事項〕⑴)。
  (ア) 参加者の数,市場シェア等については,一般的に参加者の市場シェアが高く,技術開発力等の事業能力において優れた事業者が参加者に多いほど,独占禁止法上問題となる可能性は高くなり,逆に参加者の市場シェアが低く,また参加者の数が少ないほど,独占禁止法上問題となる可能性は低くなる。
     研究開発の共同化に関連する市場としては,製品とは別に成果である技術自体が取引されるので,技術市場も考えられる。技術市場における競争制限の判断に当たっては,参加者の当該製品についての市場シェア等によるのではなく,当該技術市場において研究開発の主体が相当数存在するかどうかが基準となる。その際,技術はその移転コストが低く,国際的な取引の対象となっていることから,当該技術市場における顕在的又は潜在的な研究開発主体としては,国内事業者だけでなく,外国事業者をも考慮に入れる必要があり,通常は相当数の研究開発主体が存在することが多く,そのような場合には,独占禁止法上問題となる可能性は低い。
  (イ) 研究の性格については,研究開発は,段階的に基礎研究,応用研究及び開発研究に類型化することができるが,この類型の差は共同研究開発が製品市場における競争に及ぼす影響が直接的なものであるか,間接的なものであるかを判断する際の要因として重要である。特定の製品開発を対象としない基礎研究について共同研究開発が行われたとしても,通常は,製品市場における競争に影響が及ぶことは少なく,独占禁止法上問題となる可能性は低い。一方,開発研究については,その成果がより直接的に製品市場に影響を及ぼすものであるので,独占禁止法上問題となる可能性が高くなる。
  (ウ) 共同化の必要性については,研究にかかるリスク又はコストが膨大であり単独で負担することが困難な場合,自己の技術的蓄積,技術開発能力等からみて他の事業者と共同で研究開発を行う必要性が大きい場合等には,研究開発の共同化は研究開発の目的を達成するために必要なものと認められ,独占禁止法上問題となる可能性は低い。
  (エ) 共同研究開発の対象範囲,期間等については,対象範囲,期間等が明確に画定されている場合には,それらが必要以上に広汎に定められている場合に比して,市場における競争に及ぼす影響は小さい。
 イ なお,前記の問題が生じない場合であっても,参加者の市場シェアの合計が相当程度高く,規格の統一又は標準化につながる等の当該事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において,ある事業者が参加を制限され,これによってその事業活動が困難となり,市場から排除されるおそれがある場合に,例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある(私的独占等。共同研究開発ガイドライン第1-2〔判断に当たっての考慮事項〕⑵)。

⑵ア(ア) 産業用機械Aの基礎技術に係る顕在的又は潜在的な研究開発主体としては海外の産業用機械Aメーカー,国内外の大学等が存在しており,その数は相当な数に上ると考えられる。
  (イ) 本件取組は,産業用機械Aの基礎技術の研究に関するものであり,特定の製品の開発を対象とするものではないため,6社の間で製品の開発競争が損なわれる可能性は低い。また,一般に,製品の共同開発の場合には,開発過程における知識の共有等を通じて製品の発売に伴う価格,数量,仕様等に関する情報が共有され,事業者間に協調が生じる可能性があるが,本件取組は基礎技術に係る共同研究であるので,6社間で知識が共有されても,そのような協調が生じるおそれは低い。
  (ウ) 産業用機械Aの基礎技術の研究に関しては,多額の資金を要する上に,製品化して市場への発売に成功するものは一部に限られるため,投資した資金を回収できるかどうかが分からないという不確実性があり,メーカーにおいて研究に割くことができるリソースが限定的であることから,6社が共同して行う必要があると認められる。
  (エ) 本件取組においては,共同研究の範囲に関して技術α,技術β及び技術γという3つの研究項目を定めており,また,共同研究の実施期間は5年間に限定されている。
  (オ) 以上の状況を総合的に勘案すれば,我が国における産業用機械Aの製造販売分野における6社の市場シェアの合計が約80パーセントに上ること及び6社がいずれも技術開発力に優れていることを考慮しても,本件取組によって産業用機械Aに係る技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されることにはならないといえる。
 イ 本件取組については,基礎技術の研究に関するものではあるものの,産業用機械Aの製造に不可欠な技術の開発に結び付くことはあり得る。その意味で,本件取組は,産業用機械Aの製品市場における競争に影響を与える可能性はある。
   もっとも,6社以外の産業用機械Aメーカーは,国内に産業用機械Aの生産拠点を置いている場合であって,共同研究のパートナーたり得る相応の技術力を有しているときは,本件取組に参加することができる。また,本件取組に参加できないメーカーも,本件取組による研究の成果を無償又は合理的な対価で利用することができる。
   このため,本件取組によって6社以外の産業用機械Aメーカーが産業用機械Aの製品市場から排除されることにはならない。
 ウ 以上によれば,本件取組は,不当な取引制限,私的独占等として独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

   本件取組は,独占禁止法上問題となるものではない。

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