4 化学製品メーカーによる共同配送

 化学製品メーカー2社が、商品配送の効率化のため、遠隔地域に所在する需要者への配送ルートを共同化することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 X社(化学製品メーカー) 

2 相談の要旨

⑴X社及びY社の2社(以下「2社」という。)は、いずれも、化学製品甲のメーカーである。
⑵2社の化学製品甲のA地域内に係る売上シェアは、Y社が約10 パーセント、X社が約5パーセントの約15 パーセントと推計される。
⑶現在、2社は、B地域から地理的に離れているA地域向けに発送される2社の化学製品甲の物流共同化の話を進めている。
 ア 共同配送する区間は、B地域にあるX社のα工場からA地域にあるX社のβ営業所の間である。配送業務は、X社が運送業者P社に委託する。B地域にあるY社のγ工場の化学製品甲はX社のα工場に持ち込まれ、X社の製品と混載し、A地域に配送された後、X社のβ営業所の倉庫に一時保管される。
 イ その後、Y社の製品は、X社のβ営業所からA地域にあるY社のδ営業所まで、X社が契約する別の運送業者Q社により配送される。
   Y社のA地域内の化学製品甲の需要者までは、同社のδ営業所が自ら配送を行う。このため、X社は、Y社のA地域内の化学製品甲の需要者の所在地や名称は分からない。
 ウ 共同配送する化学製品甲は、Y社のA地域向けの製品全体のうち、定期的に配送がある製品が中心であり、A地域向けの全部ではない。
 エ 製品価格のうち物流経費が占める比率は、X社、Y社のいずれも小さい。
 オ 共同配送の実施に当たって、2社間で需要者名や販売価格に関する情報を交換することはない。運送会社P社及びQ社に対しては、X社が運賃を支払い、Y社製品に係る運賃相当額をX社からY社に請求する。
 カ 2社と運送業者P社との間で共有され得る情報については、次のとおり。
 (ア) 各在庫拠点の名称及び納入条件、運送業者の名称及び契約条件
 (イ) 各在庫拠点において保管・配送する化学製品甲の容量・荷姿・数量
 (ウ) 各在庫拠点における荷役・保管及び配送の原価
 (エ) 化学製品甲の引渡し方法及び納品伝票の様式等
 キ X社が運送業者P社への委託に当たり必要となる化学製品甲の配送数量の情報は、運送業者P社への委託手続を行うX社の生産部門(物流担当部署)内で使用するにとどまり、組織上分離されている営業担当部門に共有されることはない。
  このような2社の取組(以下「本件取組」という。)は、独占禁止法上問題となるか。
 

○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
⑵ア まず、本件取組が運送サービスの調達市場における競争に与える影響について検討する。
 (ア) 本件取組は、我が国の化学製品甲の製造販売分野において競合関係にある2社が、製品配送の効率化のためにB地域から地理的に離れているA地域に所在する需要者向け販売に係る配送の共同化を行うものであるので、A地域における運送サービスの調達市場(以下「本件調達市場」という。)を一定の取引分野として画定した。
 (イ) 本件取組によって、本件調達市場における2社合計の市場シェアは、各社単独の場合よりも高まることになる。
     しかしながら、共同配送する製品は、Y社のA地域向けの製品全体のうち、定期的に配送がある製品が中心であり、A地域向けの全部ではない。
 (ウ) このため、本件取組が本件調達市場に与える影響は軽微であり、調達カルテルや他の調達者の排除の問題は生じないと考えられる。
 イ 次に、本件取組が化学製品甲の販売市場における競争に与える影響について検討する。
  (ア)a 化学製品甲との間で需要の代替性又は供給の代替性のある商品が存在する可能性はあるものの、本件取組は化学製品甲のみを対象としているので、競争への影響をより慎重に検討する観点から、「化学製品甲」を商品範囲として画定した。
    b 化学製品甲について、A地域において輸送上の制約はなく、2社を含めた化学製品甲メーカーは、A地域の需要者に対して化学製品甲を販売している。このため「A地域」を地理的範囲として画定した。
  (イ)  2社の売上シェアの合計はA地域において約15 パーセントにとどまる上、本件取組の対象製品は、2社のA地域向け販売のうちの一部であるため、売上シェアは更に小さくなると考えられるところ、2社は、本件取組により、互いに相手方の本件取組の対象製品の納入先や価格についての情報を得られるものでもない。
 (ウ)  X社は、本件取組により、Y社の本件取組の対象製品の数量に係る情報を得ることが可能になるものの、当該情報の共有先はX社内の物流担当部署に限定され、営業担当部門に情報が共有されることはない。
 (エ)2社ともに、化学製品甲の販売価格に関する情報は運送業者P社に対しても一切伝えず、Y社の製品は、X社のβ営業所からY社のδ営業所に移した後に需要者に配送されるため、需要者名、配送数量等の情報は互いに把握することができない。
 (オ) 本件取組の対象製品の価格に占める物流経費の割合は、小さい。
 (カ) このため、本件取組が行われても、2社間で化学製品甲の販売に関する競争が制限されることとはならないといえる。
 ウ したがって、本件取組は、化学製品甲に係る運送サービスの調達市場及び化学製品甲の販売市場のいずれに関しても、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。 

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