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6 パテントプールの管理運営者による特許権者の特許評価請求件数の上限設定

6 パテントプールの管理運営者による特許権者の特許評価請求件数の上限設定

 パテントプールの管理運営を行う業務用機械メーカーの団体が、会員たる特許権者からの特許の評価請求件数を抑制するため、会員ごとに評価請求件数の上限を設ける施策を導入することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例  

1 相談者

 X協会(業務用機械のメーカーを会員とする団体) 

2 相談の要旨

⑴X協会は、業務用機械Aのメーカーを会員とする団体であり、パテントプールの管理運営を行っている(以下、X協会が管理しているパテントプールを「本件パテントプール」という。)。
⑵ア X協会の会員は、いずれも、業務用機械Aの製造に関する特許を保有しており、自らが保有する当該特許の全てについて、X協会にサブライセンス付きのライセンスを付与している。
   X協会は、会員等のライセンシーに対し、特許権者からプールされた全ての特許を一括してライセンスしている。
   ライセンシーは、X協会からライセンスを受けた特許を実施して製造した業務用機械Aの販売台数に応じて、X協会に対しライセンス料を支払っている。
   X協会は、ライセンシーから支払を受けたライセンス料を、特許権者に分配している[1]

[1]X協会の会員は特許権者であると同時にライセンシーでもあるところ、以下では、特許権者としての会員のことを「特許権者」と、ライセンシーとしての会員等のことを「ライセンシー」という。


 イ 従前の、X協会による特許権者に対するライセンス料の分配の方法は、次のとおりである。
 (ア) X協会は、業務用機械Aの市場シェアが大きいライセンシー10 社が製造販売している機種の中から、前年度の販売台数が最も多かった機種を各社1機種ずつ、合計10 機種を選定し、当該10 機種を「評価対象機種」として特許権者に周知する。
 (イ) 特許権者は、自らが保有する特許のうち、評価対象機種において実施されていると考えるものについて、X協会に対し、ライセンス料の分配額に係る評価を請求する(以下、当該請求を「評価請求」といい、評価請求が行われた特許を「評価対象特許」という。)。
 (ウ) X協会は、評価対象特許ごとに、「評価ポイント」を算出する。評価ポイントとは、特許が実施されている評価対象機種に係る機種の数の合計値であり、例えば、2機種で実施されている特許であれば2ポイントであるが、1機種も実施されていない特許であれば0ポイントとなる。
 (エ) X協会は、合計評価ポイント(全ての評価対象特許の評価ポイントの合計をいう。以下同じ。)に占める特許権者ごとの評価ポイントの合計の割合(以下「権利シェア」という。)を算出する。
 (オ) X協会は、事業年度ごとに、ライセンシーから支払を受けたライセンス料を、権利シェアに応じて、評価請求を行った特許権者に分配する。
 (カ) 前記(ア)から(オ)までの一連の手続を、以下「権利評価」という。
⑶ア 近年、評価対象特許の数は、増加傾向にある。X協会は、全ての評価対象特許について権利評価を行っており、これまでは人員の増加等の体制整備により対応してきた。
   しかしながら、X協会においては、評価対象特許の増加のペースに体制整備が追い付かないことに加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により評価効率が悪化していることなどから、権利評価作業が遅延し、一事業年度内に権利評価を完了することが困難な状況にある。
 イ 評価対象特許の数が増加している理由は、特許権者にとってライセンス料の分配が受けられることへの期待から、特許が評価対象機種で実施されているかどうかを十分に吟味しないままX協会に対して評価請求が行われたと疑われるケースが増加しているためである。例えば、直近の事業年度においては、評価ポイントがゼロであった評価対象特許(以下「0ポイント特許」という。)は、評価対象特許全体の約15 パーセントを占めている。
⑷そこで、X協会は、評価対象特許の数を抑制するための方策を講ずることを検討している。具体的には、0ポイント特許となるような評価請求を減らすことを目的として、X協会が一事業年度に対応する評価請求件数の上限を定めた上で、当該評価請求件数を特許権者ごとにあん分し(各特許権者の過去の評価請求件数の平均値等を基に算出した比率であん分する。その際、あん分件数が一定件数以下となる場合、あん分件数は0件とみなされる。)、各特許権者が一事業年度に評価請求できる件数の上限を定める。
 なお、保有する特許権の数が少ないことから評価請求件数自体が少なくなる特許権者に対しては、年間20 件の最低保証件数を設けることとする。
 また、相談者によると、0ポイント特許と判断される特許を保有する特許権者が特定の者に偏っているという事実はなく、0ポイント特許と判断されるような評価請求を制限したとしても、特許権者の権利シェアの変動幅は僅少である。
 このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は、独占禁止法上問題となるか[2]

[2]本件パテントプールはX協会によって既に管理運用されているところ、事業者等によって既に実施されている行為については公正取引委員会の相談制度の対象とはならないため、以下では、未実施である本件取組に限定して、独占禁止法上問題となるか否かの検討を行う。
 

○本件取組の概要図


 

3 独占禁止法上の考え方

⑴パテントプールに参加する者に対して、パテントプール運営のために一定のルールを課すことなどは、制限の内容がパテントプールを円滑に運営し、規格を採用する者の利便性を向上させるために合理的に必要と認められるものであり、かつ、特定の事業者にのみ不当に差別的な条件を課すものでない限り、通常は独占禁止法上の問題を生じるものではない。例えば、ライセンス料の分配方法を様々な要因に基づいて決定したとしても、通常は独占禁止法上の問題を生じるものではない(パテントプールガイドライン第3-2⑵イ(パテントプールへの参加者に対する制限))。
 他方で、事業者が、不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすることは、不公正な取引方法(一般指定第4項(取引条件等の差別取扱い))に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第19 条)。
 取引条件等の差別取扱いは、取引条件等に差があること自体が問題となるのではなく、公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合に問題となるものである。すなわち、取引条件等に差を設けることを通じて市場における競争(行為者とその競争者との競争、差を設けられることによってその事業活動において競争上の影響を受ける者の間における競争)を減殺するおそれがあるかどうかが独占禁止法違反の判断における論点となる。
⑵ア(ア) X協会による権利評価の作業の遅延によって、実施許諾の対価を収受する時期を遅らせることとなる(すなわち、特許権者にとって不利益となる。)。
     また、0ポイント特許は、評価対象機種のうちの1機種も実施されていないものであり、業務用機械Aの製造において広く利用される技術というわけではなく、その意味において、特許としての評価は、複数の機種で実施されている評価対象特許と比べると、相対的に低いとみられる。
     そのため、本件取組を実施したとしても、そのこと自体は不合理な差別であるとはいえない。
  (イ)  本件取組によってあん分結果に応じた扱いを行うこととしても、全ての特許権者に対してあん分結果に応じて平等に適用されるものである。
     また、0ポイント特許の保有者は、特定の特許権者に偏っているわけではなく、会員が精査・選別して評価請求を行えば、従前認められていたのと同様の評価ポイントを獲得することが可能であると考えられ、本件取組による各特許権者の権利シェアの変動幅は僅少である。
     加えて、年間20 件の最低保証件数が設けられており、評価請求できる件数が少ない会員に対して過度の制約とならないように配慮がなされている。
     したがって、本件取組によって、本件パテントプールにおけるライセンス料の分配について、不当に、特定の特許権者に有利な又は不利な状況が生じるとはいえない。
 イ 本件取組は、特許権者による評価請求の件数に上限を設けるものにすぎず、0ポイント特許の保有者による本件パテントプールへの参加が妨げられることはない。また、X協会は本件パテントプールにプールされている特許を一括してサブライセンスしているため、特許に係る取引の機会が減少することもない。したがって、本件取組により、業務用機械Aの製造に係る技術の市場における特許権者間の競争に影響が生じることはない。
   また、本件取組は、本件パテントプールにプールされている特許の内容及びX協会が当該特許をサブライセンスする際の条件に変更を生じさせるものではない。このため、当該特許に係る技術を用いた業務用機械Aの製造販売市場におけるライセンシーの間の競争にも影響は生じない。
 ウ 以上によれば、本件取組は、取引条件等の差別取扱いとして独占禁止法上問題となるものではない。

 

4 回答

  本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。

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