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7 協同組合が委託を受けた運送業務を消費税の免税事業者である組合員に再委託を行う場合に、当該再委託の代金について消費税相当額を差し引いて支払う取組

7 協同組合が委託を受けた運送業務を消費税の免税事業者である組合員に再委託を行う場合に、当該再委託の代金について消費税相当額を差し引いて支払う取組

 運送業務を行う事業者を組合員とする協同組合が、共同事業として行う運送業務について、その配分先である組合員が消費税の免税事業者である場合、運送代金から消費税相当額の手数料を別途差し引いて支払うことについて、取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、免税事業者との十分な協議を行うことなく、協同組合の都合のみで、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を一方的に設定した場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例  

1 相談者

 X協同組合連合会(運送業務を行う事業者を組合員とする協同組合の全国団体)

2 相談の要旨

⑴ア X協同組合連合会は、運送業務を行う組合員で組織された協同組合(以下「組合」という。)の全国団体である。
   組合に加盟する組合員(以下「組合員」という。)は、日本全国の一定地域においてそれぞれ運送業務を行っている。
 イ 組合員が行う運送業務には、組合が依頼主から運送業務を受注し、組合員に配分する共同受注と、直接依頼主から運送業務を受注する個別受注の二つがある。
⑵ア 令和5年10 月1日から、基準期間の課税売上高が1000 万円を超えることから消費税法上の納税義務を負う事業者(以下「課税事業者」という。)が仕入れの際に発生した消費税を差し引くことができる方法(以下「仕入税額控除」という。)として、複数税率に対応した適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」という。)が導入される。インボイス制度における適格請求書(以下「インボイス」という。)とは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるために、登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額等の一定の事項を記載した文書である。
 イ インボイス制度の導入以降、①課税事業者及び②基準期間の課税売上高が1000万円以下であることから消費税法上の納税義務を負わない事業者(以下「免税事業者」という。)であっても消費税の納税を行おうとする者は、国税庁への所要の登録を行うことで、インボイスを発行することができる。
 ウ 他方、国税庁への所要の登録を行わない免税事業者は、インボイスを発行することができない。
 エ インボイス制度が導入された後は、課税事業者は、インボイスがなければ仕入税額控除ができなくなる。
⑶ア 現在、組合員には、課税事業者と免税事業者が存在している(以下、課税事業者の組合員を「課税組合員」といい、免税事業者の組合員を「免税組合員」という。)。
 イ しかしながら、インボイス制度が導入されても、全ての免税組合員が課税組合員に転換せず、免税組合員が一定程度残ることが予想される。
⑷ア 依頼主が、組合に対して運送業務を委託(組合による共同受注)すれば、当該組合からインボイスの発行を受けることができるため、依頼主は仕入税額控除をすることができる。
 イ 運送業務の共同受注の流れは以下のとおりである。
  (ア)  組合は、共同事業として依頼主から受注した運送業務を組合員に配分する。
  (イ) 組合員は、当該運送業務を終えた後、組合に対して、実際に要した距離及び時間を報告する。
  (ウ) 組合は、前記(イ)の報告を基に計算した運送代金に消費税を加えて、依頼主に請求する。
  (エ) 組合は、依頼主から前記(ウ)の支払(消費税を含む。)を受け、組合の手数料を差し引いた上で、組合員に支払う。
 ウ インボイス制度が導入された後、組合が依頼主から共同受注した運送業務について、
  (ア) 課税組合員に配分した場合、課税組合員が組合に対してインボイスを発行することで、組合は仕入税額控除(依頼主から支払を受けた運送代金に係る消費税から、課税組合員に運送代金を支払う際の消費税を差し引く。)をすることができ、組合が仕入税額控除をした残りの消費税額を課税組合員が納税することとなる。
  (イ) 免税組合員に配分した場合、免税組合員は組合に対してインボイスを発行することができず、組合は仕入税額控除をすることができないため、前記(ア)で課税組合員が納税する分の消費税を組合が納税する必要が生じる。そのため、課税組合員に配分した場合よりも、組合が負担する消費税の納税額が増加することになる。
⑸そこで、組合は、免税組合員に対して、組合が共同受注する運送事業を配分した際の運送代金を精算するに当たり、依頼主から入金される代金から、別途消費税相当額(10 パーセント)の手数料を差し引いた金額を支払うことを検討している。
  このような組合の取組(以下「本件取組」という。)は、独占禁止法上問題となるか。

○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

 事業者団体が、事業者としての性格を併せ持つときに、自ら主体となって事業を行うに際して不公正な取引方法を用いれば、独占禁止法第19 条の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-6(不公正な取引方法))。
⑴独占禁止法第2条第9項第5号関係
 ア 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定することは、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)に該当する。
 イ 本件取組は、組合が依頼主に対してインボイスを発行し、依頼主から入金された代金を組合員に支払うに当たり、組合にインボイスを発行できない組合員については、別途、消費税相当額の手数料を差し引くことにより、課税組合員に同等の運送業務を配分したときよりも低い取引価格を支払うというものである。
 ウ 本件取組については、組合が、インボイス制度が導入された後、免税組合員に対して、消費税相当額の手数料を差し引くことを要請し、取引価格の再交渉において、免税事業者の諸経費の支払に係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定するのであれば、取引価格の決定方法が不当とはいえない。
   しかし、当該再交渉が形式的なものにすぎず、組合の都合のみで、免税組合員が負担していた消費税額も払えないような価格を一方的に設定した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがある。
⑵独占禁止法第2条第9項第2号若しくは一般指定第3項又は一般指定第5項関係
 ア 事業者が、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けることは、差別対価(独占禁止法第2条第9項第2号又は一般指定第3項(差別対価))に該当する。
   また、事業者団体若しくは共同行為からある事業者を不当に排斥し、又は事業者団体の内部若しくは共同行為においてある事業者を不当に差別的に取り扱い、その事業者の事業活動を困難にさせることは、事業者団体における差別取扱い等(一般指定第5項)に該当する。
 イ 本件取組は、組合が依頼主に対してインボイスを発行し、依頼主から入金された代金を組合員に支払うに当たり、組合にインボイスを発行できない組合員については、別途、消費税相当額の手数料を差し引くというものである。
   組合が免税組合員に再委託した運送業務の代金を支払う場合、組合は、免税組合員からインボイスの発行を受けられず、仕入税額控除ができないことから、課税組合員に再委託した運送業務の代金を支払う場合と比較して、消費税の納税額が増加することになる。
   経済活動において、取引条件の相違を反映して取引価格に差が設けられることは、広く一般にみられることであり、本件のようなコスト差を手数料率に反映することは、その結果、免税組合員への支払額が課税組合員への支払額より少なくなるとしても、正当なコスト差に基づくものである場合には、免税組合員を不当に差別的に取り扱うものとまでは直ちに認められない。
   また、免税組合員が共同受注そのものから排斥されるわけではないため、免税組合員を差別的に取り扱うものではなく、本件取組をもって直ちに免税組合員の事業活動が困難になるとはいえない。
   したがって、本件取組は、差別対価及び事業者団体における差別取扱い等の観点から、独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は、取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、免税組合員との十分な協議を行うことなく、組合の都合のみで、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を一方的に設定した場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがある。

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