医療関連の検査業務を営む事業者を会員とする団体が、会員の取引先である医療機関に対し、業界の窮状を訴える文書を発出することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協会(医療関連の検査業務を営む事業者の団体)
2 相談の要旨
⑴X協会は、医療関連の検査業務を営む事業者を会員とする団体である。
⑵会員の検査業務は、主に医療機関からの検体の集荷、検体の検査及び医療機関に対する検査結果の報告である。
このうち、医療機関からの検体の集荷及び医療機関に対する検査結果の報告については、主に会員が所有する車両を用いて行っている。
⑶検査業務に係る料金(以下「検査実施料」という。)は、会員と医療機関との間の個別交渉によって決まっている。
⑷会員の検査業務のコストは、主に以下のような理由から、大幅に上昇している。
ア 検査業務に使用する試薬等の諸資材の高騰
イ 会員の従業員の定着率を高めるための給与等の待遇改善
ウ エネルギー価格の高騰
⑸医療機関が会員の検査実施料の引上げに応じなければ、前記⑷のコストの上昇のしわ寄せが会員各社に生じてしまうところ、会員各社の自助努力だけでは限界があり、対応に苦慮している状況にある。
⑹X協会としては、前記⑷及び⑸のような状況を医療機関に理解してもらうため、次のような内容を記載した要請文書(以下「本件文書」という。)を作成し、X協会のウェブサイトに掲載するとともに、会員がそれぞれ独自に医療機関との間で行う検査実施料の改定交渉時に持参できるように会員に配布すること(以下「本件取組」という。)を検討している。
なお、X協会は、本件文書の最後の箇所については、①ないし③のいずれかを記載することを考えている。
X協会の本件取組は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図
3 独占禁止法上の考え方
⑴事業者団体が、構成事業者が供給し、若しくは供給を受ける商品若しくは役務の価格を決定し、又はその維持若しくは引上げを決定し、これにより市場における競争を実質的に制限することは、独占禁止法第8条第1号に違反する。また、市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても、このような決定を行うことは原則として独占禁止法第8条第4号の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-1-1(価格等の決定))。
⑵ア 一般的に、事業者団体が、原材料の値上げ等による業界の窮状を訴える文書を作成し、取引先に対してそれを配布したり、当該団体のウェブサイト等に掲載したりすることは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
しかしながら、文書の内容は業界の窮状を訴えるものであっても、当該文書の作成等を契機として会員事業者間に競争制限に係る暗黙の了解や共通の意思が形成されたり、それが手段・方法となって競争制限行為が行われたりする場合には、独占禁止法上の問題を生じることとなる。
イ 本件文書は、前記2⑹の①ないし③を含めて、検査業務コストの上昇に伴う業界の窮状を訴える旨の内容にとどまっており、X協会が本件文書をウェブサイトに掲載したり、会員に配布したりすること自体は、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、前記2⑹①ないし③のいずれの文面であったとしても、独占禁止法上問題となるものではない。