医薬品メーカーを会員とする団体により構成される連合会が、傘下団体の会員である医薬品メーカーを対象に、会員医薬品メーカーの取引先である卸売業者に対する医薬品の出荷状況等の実態調査の実施及び公表を行うことについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X連合会(医薬品メーカーを会員とする団体により構成される連合会)
2 相談の要旨
⑴X連合会は、医薬品メーカーを会員とする団体により構成される連合会である。国内の医薬品を供給しているほとんど全ての医薬品メーカーは、X連合会の傘下のいずれか又は複数の団体に所属している。
⑵ア ジェネリック医薬品の品質問題が発端となり、問題を起こした医薬品メーカーの多くの医薬品が出荷停止となり、その他の医薬品メーカーが、自主的に、多くのジェネリック医薬品を出荷停止としたり出荷量に制限を設けたりしたことから、ジェネリック医薬品の供給不足が生じて、医療機関等がジェネリック医薬品を入手することが困難な状況が続いている。
イ 医療機関等は、入手が困難なジェネリック医薬品の代替品として、入手可能なジェネリック医薬品やジェネリック医薬品ではない医薬品を確保する必要が生じている。
ウ しかしながら、医薬品全体の出荷状況を一覧で確認できるリストが存在していないため、医療機関等は、必要な医薬品を確保するために、多大な時間と労力が必要となっている。
⑶X連合会は、ジェネリック医薬品の供給不足に端を発した医薬品の供給不安を解消する目的で、以下アないしウの取組(以下「本件取組」という。)を検討している。
ア 傘下団体の会員医薬品メーカーに対して、定期的に、以下の(ア)ないし(ウ)を主な内容とする医薬品ごとの任意回答による実態調査(以下「本件調査」という。)を行う。
(ア) 出荷量の状況(これまでの出荷量に比した現在の出荷量の割合について4つの選択肢(出荷量通常、出荷量減少、出荷量支障又は出荷停止)から回答)
(イ) 卸売業者からの注文数量に対する出荷量の充足状況(供給不安により変動した卸売業者からの注文数量に対する現在の出荷量の充足状況とその理由について4つの選択肢(通常出荷、限定出荷(自社の事情)、限定出荷(他社の事情)又は限定出荷(その他))から回答)
(ウ) 前記(ア)において、出荷量支障又は出荷停止と回答した場合はその理由、(ア)において出荷停止又は(イ)において限定出荷(自社の事情)、限定出荷(他社の事情)若しくは限定出荷(その他)と回答した場合はその解消見込み時期
イ 本件調査に対する傘下団体の会員医薬品メーカーからの回答は、X連合会が集計する。
ウ 前記イの集計結果については、X連合会及び傘下団体のウェブサイトで公表する。
本件取組は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図
3 独占禁止法上の考え方
⑴事業者団体が、当該産業に関する商品知識、技術動向、経営知識、市場環境、産業活動実績、立法・行政の動向、社会経済情勢等についての客観的な情報を収集し、これを構成事業者や関連産業、消費者等に提供する活動は、当該産業への社会公共的な要請を的確にとらえて対応し、消費者の利便の向上を図り、また、当該産業の実態を把握・紹介する等の種々の目的から行われるものであり、このような情報活動のうち、独占禁止法上特段の問題を生じないものの範囲は広い(事業者団体ガイドライン第2-9(情報活動)⑴)。
しかしながら、事業者団体の情報活動を通じて、競争関係にある事業者間において、現在又は将来の事業活動に係る価格等重要な競争手段の具体的な内容に関して、相互間での予測を可能にするような効果を生ぜしめる場合がある。このような観点から見て、構成事業者が供給し、又は供給を受ける商品又は役務の価格又は数量の具体的な計画や見通し、顧客との取引や引き合いの個別具体的な内容、予定する設備投資の限度等、各構成事業者の現在又は将来の事業活動における重要な競争手段に具体的に関係する内容の情報について、構成事業者との間で収集・提供を行い、又は構成事業者間の情報交換を促進することは、独占禁止法違反となるおそれがある。このような情報活動を通じて構成事業者間に競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され、又はこのような情報活動が手段・方法となって競争制限行為が行われていれば、原則として独占禁止法第8条違反となる(事業者団体ガイドライン第2-9(情報活動)⑵)。
⑵本件取組は
ア 医薬品の供給不安を解消するという社会公共的な要請に対応する目的から行われるものであること
イ 本件調査の内容は、各医薬品の具体的な出荷量や出荷先等、会員医薬品メーカーの現在又は将来の事業活動に係る重要な競争手段の具体的な内容を含むものではないため、会員医薬品メーカー間で医薬品の出荷に係る具体的な内容について相互に行動が予測可能になるような効果を生じず、会員医薬品メーカー間で競争制限に係る共通の意思の形成や競争制限行為が行われることにはならないこと
から、独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。