一般消費者向けの商品を供給する事業者が、急激なコスト上昇のため同商品を供給する契約の新規受付を終了する競合事業者に、一般消費者との契約の取次ぎを依頼することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(商品αの供給事業者)
2 相談の要旨
⑴ア X社は、A地域において一般消費者向けに商品αを供給する事業者である。
イ Y社は、A地域において一般消費者向けに商品αを供給するとともに、全国で役務βの提供も行う事業者である。
⑵ア 商品αは、一般消費者が商品αの供給事業者又は後記⑶の取次事業者と契約を結び、一定期間継続してその供給を受ける商品である。
イ 役務βは、一般消費者が役務βの提供事業者と契約を結び、一定期間継続してその提供を受ける役務である。役務βの提供事業者は、全国に一般消費者との契約窓口となる店舗を置いている。
ウ 商品αは、どの事業者から供給を受けても品質が一定であり、一般消費者は価格を主たる指標として商品αの供給事業者を選択している。
エ 商品αの供給事業を営むに際し、多額の設備投資は必ずしも必要ではなく、事業者は比較的容易に商品αの供給市場へ参入することができる。
⑶ア 商品αの供給事業者は、他の事業者に対し、一般消費者との契約の締結の取次ぎを依頼することができる。
(ア) 商品αの供給事業者から一般消費者との契約の締結の取次ぎの依頼を受けた事業者(以下「取次事業者」という。)は、自らの名義で一般消費者と商品αの供給契約を締結する。
(イ) 商品αの供給事業者は、取次事業者と契約をした一般消費者に直接商品αを供給する。
(ウ) 取次事業者は、一般消費者から商品αの料金を受領して供給事業者へ引き渡すとともに、供給事業者から取次手数料の支払を受ける。
イ 商品αの取次事業を営むに際し、特段の資格や設備投資は必要ではなく、事業者は容易に商品αの取次事業を開始することができる。
⑷ 商品αについては、一般消費者からみて他に代替可能な商品は存在しない。また、商品αの供給可能な地理的範囲には一定の制約があり、その供給事業者は国内の地域ごとに異なる傾向にある。
⑸ア A地域における商品αの供給市場では、X社が約70%(第1位)、Y社が約3%の市場シェアを有している。また、直近の数年間に多数の商品αの供給事業者が参入しており、中でも同供給市場において約10%(第2位)の市場シェアを有するZ社の市場シェアは年々増加している。
イ Y社は、役務βの提供市場においては市場シェア約20%を有する有力な事業者であり、A地域に所在する役務βを提供するための自社店舗を自らが供給する商品αの営業活動にも活用している。
ウ Y社は、商品αの供給事業について、急激なコスト上昇を原因とする業績不振を理由に、契約の新規受付を終了することを計画している。
⑹ X社は、商品αの販売チャネルを拡大するため、次のとおり、A地域における商品αの供給に係る一般消費者との契約の締結の取次ぎをY社に依頼すること(以下「本件取組」という。)を計画している。
ア Y社は、自らが商品αを供給する契約の新規受付を終了した後、X社の取次事業者として、A地域に所在する役務βを提供するための自社店舗を活用し、X社がA地域において供給する商品αの営業活動を行う。
イ X社は、Y社が、他の商品αの供給事業者の取次事業者となること及び将来的なコスト構造の変化により、自ら商品αを供給する契約の受付を再開することを制限しない。
本件取組は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図
3 独占禁止法上の考え方
⑴ 一般に、有力な事業者が他の事業者の事業に係る権利等を集積することにより、他の事業者の事業活動を支配又は排除することによって、市場支配力が形成・強化され、競争が実質的に制限される場合には、私的独占(独占禁止法第2条第5項)として問題となるおそれがある(独占禁止法第3条)。
⑵ア 本件取組が商品αの供給市場における競争に与える影響について検討する。
イ(ア) 商品αには他に代替的な商品が存在しないことから、商品の範囲を「商品α」として画定した。
(イ) 商品αには供給可能な地理的範囲に一定の制約があることから、地理的範囲を「A地域」として画定した。
ウ 本件取組により、X社はA地域における商品αの供給市場において営業力を強化し、市場シェアを増加できる可能性がある。しかし、
(ア) A地域における商品αの供給市場にはZ社をはじめとする多数の商品αの供給事業者が存在し、X社に対する競争圧力となること
(イ) 商品αの供給市場への参入障壁は高くなく、A地域ではこれまでに多数の商品αの供給事業者が参入していることから、長期的には参入圧力が一定程度働くと考えられること、また、本件取組により、Y社が他の商品αの供給事業者の取次事業者となること及び将来的にY社自身が商品αを供給する契約の受付を再開することも制限されないこと
(ウ) 商品αの供給市場では、価格を主たる指標として契約先を選択する需要者からの競争圧力が一定程度働くと考えられること
から、本件取組は、商品αの供給市場における競争を実質的に制限するものではない。
エ 以上によれば、本件取組は独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。