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7 燃料費の高騰等による利益率の低下や新型コロナウイルスの感染拡大の影響等による利用率の低下を背景とした、旅客輸送会社による特定の路線についての運行時刻の調整等

7 燃料費の高騰等による利益率の低下や新型コロナウイルスの感染拡大の影響等による利用率の低下を背景とした、旅客輸送会社による特定の路線についての運行時刻の調整等

 燃料費の高騰等による利益率の低下や新型コロナウイルスの感染拡大の影響等による利用率の低下を背景として、旅客輸送会社2社が、共同で、特定の路線についての運行時刻等の調整を行うこと、広告活動を行うこと及び必要な範囲の情報を共有することを内容とする業務提携を行うことについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(旅客輸送会社)

2 相談の要旨

⑴ア X社及びY社(以下「2社」という。)は、いずれも国内において旅客輸送業を営む事業者である。

 イ    X社が運行している路線(以下「X社路線」という。)は、大都市同士を直接結ぶなどの基幹路線と地方都市同士を直接結ぶ地方路線である。他方、Y社が運行している路線(以下「Y社路線」という。)は、主として地方路線である。

 ウ    2社は潜在的には競合するところ、Y社路線のほとんどはY社のみが運行している路線である。


⑵  燃料費の高騰等により、旅客輸送事業全体の利益率が低下しているところ、地方路線はもともと需要が限定的で収益性が高くない。そのような中、新型コロナウイルス感染拡大の影響等により、Y社路線のほとんどは利用率が低い状況にあり、Y社はY社路線の一部の運行の廃止を決定し、また、このままでは更なるY社路線の運行の廃止、ひいてはY社の事業の継続の困難が見込まれている。


⑶  そこで、Y社は、X社に対して、Y社路線の利用者数を増やし収益を向上させるための業務提携を申し入れ、次のアからウまでを内容とする取組(以下「本件取組」という。)を計画している。

 ア    2社は、X社路線とY社路線の双方の路線の乗り継ぎを可能とするため又は効率的な乗り継ぎをするため、特定の路線について、それぞれの運行時刻の変更及び増便・減便についての調整を共同で行うが、運賃、各種運賃ごとの座席数、運行路線等に関する調整は行わず、これらの設定については各社が独自の判断で行う。

 イ    2社は、Y社路線のうち特定の路線の発着地域において、一般消費者に対して、観光情報や当該路線の利用促進等を内容とするウェブサイトやSNSへの掲載、ダイレクトメールの送付等の広告活動を共同で行う。

 ウ    ア及びイの効果を高めるために、X社が、座席数、利用率等の必要な範囲のY社路線の情報(運賃等の情報を除く。)についてY社から共有を受ける。ただし、X社は、前記情報の共有を受けるに当たり、X社内において、情報へのアクセス制限やパスワード管理など情報取得部門とそれ以外の部門(運賃等を決定する部門等)の間の情報遮断措置を講じる。

   本件取組は、独占禁止法上問題となるか。



○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴  事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。


⑵ア Y社の事業の継続のためにはX社との業務提携により収益を向上させることが必要な状況において、2社が特定の路線のそれぞれの運行時刻及び増便・減便の調整を共同で行うことについて

     ①重要な競争手段である運賃等に関する調整を行うものではなく、これらについて2社がそれぞれ独自に設定するとしていること、②Y社路線に接続するX社路線は、主に基幹路線であり、2社の路線間の乗り継ぎのための増便・減便の限りでは、他の競争事業者との競争に与える影響は小さいこと、③Y社路線においては新規参入が期待されない状況であり、他の事業者を排除することにつながるものではないこと、④双方路線の乗り継ぎ又は効率的な乗り継ぎを可能にして利用客の利便を増進させてY社路線の利用者数を増やすことを目的として行うものであり、ひいては地方都市の交通ネットワークの維持に資する取組といえることから、独占禁止法上問題となるものではない。

 イ    2社が一般消費者に対する広告活動を共同で行うことについて

     その内容は、Y社路線の特定の路線の発着地域において、一般消費者に対して観光情報や当該路線の利用促進等を広告するというもので、2社間において、当該特定の路線の重要な競争手段の情報を共有せず、運賃設定といった重要な競争手段を相互に拘束するものではないことから、独占禁止法上問題となるものではない。

 ウ    X社がY社路線の情報についてY社から共有を受けることについて

     2社間において重要な競争手段の一つである運賃に関する情報は共有されないこと、X社が取得する情報は本件取組に必要な範囲のものであること、X社が情報の共有を受けるに当たりX社内において情報遮断措置を講じることから、独占禁止法上問題となるものではない。

 エ    以上によれば、本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。

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