建設業者等により構成される連合会が、建設業における時間外労働の上限規制の適用に対応するため、週休二日を前提とした工期と費用に基づく初回の見積書を提出すること等を決定した上で発注者に対し示すとともに、対外的に宣言することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X連合会(建設業者及び建設業者を会員とする団体により構成される連合会)
2 相談の要旨
⑴ X連合会は、建設業者及び建設業者を会員とする団体により構成される連合会である。X連合会の会員である建設業者は、比較的規模が大きく、元請負人となることが多い。
⑵ア 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成 30 年法律第 71号)によって、令和6年4月1日以降、建設業の時間外労働時間については、原則として月45時間及び年360時間が上限となり、臨時的な特別の事情がなければ当該上限を超えることができず、臨時的な特別の事情があっても年720時間が上限となるなどの規制(以下「時間外労働上限規制」という。)が適用されるため、建設業者は、これへの対応が求められている。
イ 建設業者が時間外労働上限規制を遵守するためには、週休二日の確保により時間外労働を削減することが重要であるため、X連合会では、週休二日の確保に向けた取組を進めてきたが、実際に週休二日の確保ができた会員事業者は、全体の5割程度にとどまっている。
ウ 国においても、建設業における時間外労働上限規制の適用に向け、週休二日の確保など適正な工期設定のための取組を関係者に促している。
⑶ア 建設工事について、公的機関が発注者となる場合、週休二日を前提とした工期・費用での発注が行われているが、民間事業者が発注者となる場合、週休二日を前提としない工期・費用での発注が行われることも少なくない(以下、公的機関が発注する建設工事を「公共工事」といい、民間事業者が発注する建設工事を「民間工事」という。)。
イ 民間工事における建設業者と発注者との交渉においては、建設業者が発注者に対し初回の見積書を提出した後に、当該見積書を踏まえて価格等の交渉が行われ、その後に契約が締結されることが多い。
⑷ X連合会は、建設業における時間外労働上限規制の適用に対応するため、以下ア及びイの内容を決定し、対外的に宣言を行うこと(以下「本件取組」という。)を検討している。
ただし、X連合会は、会員に以下ア及びイの遵守を強制することはしない。
ア 民間工事について、発注者に対し、週休二日を前提とした工期と費用に基づく初回の見積書を提出し、当該見積書の内容の説明を行うことを徹底すること。
イ 民間工事及び公共工事について、下請事業者から週休二日を前提とした工期と費用に基づく初回の見積書が提出された場合、それを尊重すること。
本件取組は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方
⑴ 事業者団体が社会公共的な目的又は労働問題への対処のため営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては、独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い
一方、事業者団体の活動の内容、態様等によっては、多様な営業の種類、内容、方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり、独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第3号、第4号及び第5号)。このような活動における競争阻害性の有無については、①競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか、及び②事業者間で不当に差別的なものではないかの判断基準に照らし、③社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものかとの要素を勘案しつつ、判断される。
また、自主規制等の遵守については、構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって、事業者団体が自主規制等の遵守を構成事業者に強制することは、一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライン第2-8⑵(自主規制等))。
⑵ 本件取組は、団体による自主規制の活動であるところ、
ア 会員が、週休二日を前提とした工期と費用に基づく見積書を発注者に提出することや、下請事業者から提出される週休二日を前提とした工期と費用に基づく見積書を尊重することは、工期が長期化し、費用も高くなる可能性があるものの、週休二日を前提とした工期と費用に基づく見積書は、初回の見積書に限られ、それ以降の発注者及び下請事業者との交渉や契約の内容を統一するものではなく、需要者の利益を不当に害するとはいえないこと
イ 一部の会員を差別的に取り扱う内容を含んでおらず、会員間で不当に差別的な内容ではないこと
ウ 建設業における時間外労働上限規制の適用への対応として、国が促している取組内容にも沿ったものであるため、社会公共的な目的に基づく取組であり、当該目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものであること
エ X連合会は、会員に対して、本件取組の遵守を強制することはしないこと
から、本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。