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9 事業者団体による会員の価格転嫁交渉を促すため、取引先に対する要請額の算出手順の例を公表する取組

9 事業者団体による会員の価格転嫁交渉を促すため、取引先に対する要請額の算出手順の例を公表する取組

 機械部品のメーカーを会員とする団体が、会員の価格転嫁の交渉を促すため、コスト上昇分を価格転嫁するための取引先に対する要請額の算出手順の例を公表することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X工業会(機械Aの部品のメーカーを会員とする団体)

2 相談の要旨

⑴  X工業会は、機械Aの部品のメーカーを会員とする団体であり、大規模事業者が所属するほか、中小事業者も多く所属している。X工業会の会員は、会員間で機械Aの部品の取引を行うほか、会員以外の事業者とも取引を行っている。


⑵  政府が取り組んでいる「新しい資本主義の実現」に向けた成長と分配の好循環を生み出すための民間企業による賃上げのための環境整備では、原材料価格、エネルギー価格、労務費等コスト上昇分の適切な価格転嫁により、コスト上昇による負担をサプライチェーン全体で適切に分担することが課題となっている。


⑶  機械Aの部品の取引において、コスト上昇分を価格転嫁する一般的な方法には、受注者が発注者から一時金の支払を受ける方法(以下「一時金支払」という。)及び当該部品の単価に反映する方法(以下「単価反映」という。)があり、取引当事者は、通常、いずれの方法によるかを交渉の上で選択している。


⑷  昨今、機械Aの部品の製造に係る各種コストがこれまでになく大幅に上昇しているところ、X工業会の会員である中小事業者は価格転嫁の方法についての知識や価格転嫁のための算定等を行う人手が不足していることなどの事情から価格転嫁の交渉をどのように申し入れてよいのか分からないとして、交渉の申入れがなされず、価格転嫁が進まない状況が発生している。


⑸  そのため、X工業会は、会員である中小事業者の大規模事業者等に対する価格転嫁の交渉を促すため、原材料価格、エネルギー価格及び物流費それぞれについて、新聞、ウェブサイト等で公表されている市況情報の推移を、統計データとして取りまとめ、会員が当該データなどを用いて、コスト上昇分を価格転嫁するための取引先に対する要請額を容易に算出することができる、以下のア~ウの算出手順の例を公表すること(以下「本件取組」という。)を検討している。

 ア    コスト上昇分を算出するための期間を設定する。

 イ    前記アで設定した期間における始期と終期のコストの差分を求めることにより、コスト上昇分を算出する。

 ウ    取引先に対する要請額を算出する。

    (ア)  一時金支払によって価格転嫁する場合

         前記イで算出したコスト上昇分を、取引実態に応じた比率(売上比率、重量比率、個数比率等)を用いて取引先ごとに按分することにより、一時金支払による場合の要請額を算出する。

    (イ)  単価反映によって価格転嫁する場合

         前記(ア)で算出した一時金支払による場合の要請額を、各製品の比率(売上比率、重量比率、個数比率等)を用いて製品ごとに按分し、個数で除することにより、単価反映による場合の要請額を算出する。

     本件取組は、独占禁止法上問題となるか。



○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴ア 事業者団体の情報活動を通じて、競争関係にある事業者間において、現在又は将来の事業活動に係る価格等重要な競争手段の具体的な内容に関して、相互間での予測を可能にするような効果を生じせしめる場合がある。このような観点から見て、重要な競争手段に具体的に関係する内容の情報活動は、独占禁止法上問題となり得るものである。

     事業者団体によるこのような情報活動を通じて、事業者間で、価格、数量、顧客・販路、設備等に関する競争の制限に係る合意が形成され、事業者が共同して市場における競争を実質的に制限する場合には、これら事業者の行為が独占禁止法第3条の規定に違反する(事業者団体ガイドライン第2-9(情報活動)⑵及び9-1)。

     一方、事業者団体が、政府機関、民間の調査機関等が提供する当該産業に関連した技術動向、経営知識、市場環境、立法・行政の動向、社会経済情勢等についての一般的な情報を収集し、提供することは、原則として独占禁止法上問題とならない(事業者団体ガイドライン第2-9-3(技術動向、経営知識等に関する情報の収集・提供))。

 イ    中小事業者は、大規模事業者に比して経営に関する知識等において相対的に不足する面があることから、それを補って各事業者がその自主的な判断に基づいて事業の改善を図ることができるよう、中小事業者の団体が経営指導を行うことは、本来独占禁止法上問題となるものではない。

     例えば、中小事業者の団体が、中小事業者に対して、原価計算や積算について標準的な項目を掲げた一般的な方法を作成し、これに基づいて原価計算や積算の方法に関する一般的な指導又は教育を行うことは、事業者間に価格等重要な競争手段の具体的な内容について共通の目安を与えるようなことのないものに限り、原則として独占禁止法上問題とならない(事業者団体ガイドライン第2-10-4(原価計算の一般的な方法の作成等))。


⑵ 本件取組については、

ア 市況情報の推移の調査対象は、いずれも公表されているものであり、その推移を整理するにとどまるものであること

イ 公表される算出手順は、事業者が取引先に価格転嫁を要求するに当たり、通常考えられる要請額の算出手順を例示するものにすぎず、具体的な価格等を示すものではないことから、事業者間の競争に影響を与えるようなものとは考えられず、また、X工業会が、当該算出手順を使用することを会員に強制するものではないこと

 から、独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。

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