平成30年11月7日(水曜)
はじめに
皆さん,おはようございます。ワークショップの開会に当たり,公正取引委員会(JFTC)を代表して一言御挨拶を申し上げます。
この企業結合ワークショップに参加するために多数の方に世界中からここ東京に集まっていただきました。何と約40の国・地域から200名以上の方がこのワークショップに参加しています。公正取引委員会委員長として皆さんを歓迎いたします。特に,このワークショップを企画・立案するに当たってJFTCをサポートしていただいた共同議長の米国連邦取引委員会そして英国競争・市場庁に深く感謝申し上げます。
ワークショップのテーマと意義
いろいろなところで申し上げているのですが,世の中,経済社会が大きく転換しております。それに対応する競争政策の執行が我々競争当局には求められているのだと思っています。世の中の大きな変化を端的に表すものとして,もちろんこれだけではないかもしれませんが,グローバル化とデジタル化があります。私どもは,このワークショップの大テーマを検討するに当たり,この2つの大きな動きを反映させることが重要であると考えました。よって,「グローバル化,そしてデジタル化を踏まえた企業結合審査のあるべき姿とは何か」,これをこのワークショップの大テーマとしました。
グローバル化,これは今に始まったことではありませんが,このところ,さらに加速化しているように見えます。今や,世界中に影響を与え得る企業結合についての報道が毎週のように世界中を賑わせています。全世界で年に約5万件のM&Aが行われ,その規模も約3.5兆ドルに上るという数字が報じられています。これは,ドイツのGDPに相当する金額です。さらに,そのうち国境をまたぐM&Aが金額的には3割を占めるといわれております※。このような国境をまたぐM&Aに適切に対応するためには,企業結合審査についての各国の実務が国際標準に向けて収れんしていくことが必要であると考えております。このワークショップでの議論を踏まえて,各国の当局の審査実務が経済活動のグローバル化,デジタル化にもより適切に対応できるように進展することを期待しています。また,競争当局間の協力も不可欠です。このワークショップでは国際協力に係るセッションも用意しております。国際協力については,ICN企業結合作業部会の場でこれまでも精力的な議論がなされていると承知しておりますが,このワークショップがそれらの議論をさらに促進することができればと期待しております。
次に,デジタル化,今やネットでほとんどの商品・サービスの提供を受けることができる時代です。また,我々の生活の多くがインターネットにつながるような時代になりつつあります。デジタル化を背景とした企業結合審査のあるべき姿とは何か,私も非常に関心を持っております。特に最近,いわゆるプラットフォーム企業が,将来の競争相手となるかもしれない小さなスタートアップ企業を買収する事例が多く見られますが,これらに競争当局がどう対応していくかも,重要な課題であると思います。このワークショップでどのような議論がなされるのか非常に楽しみです。ここでの議論がデジタル化時代の企業結合審査とは何かという問いに対する解を見つけるのに貢献することを期待しております。
※Thomson Reuters “MERGERS & ACQUISITIONS REVIEW (Full Year 2017)”, P2.
ICN企業結合作業部会に対する期待
グローバル化,そしてデジタル化を踏まえた企業結合審査のあるべき姿については,いろんな議論があるところだと思います。ただ,先ほども申し上げたとおり,企業結合審査には国際的整合性というのが常に求められると考えております。
JFTCでも,「新時代の競争政策」ということを標榜して競争政策を遂行しているところです。その中で,いろいろご批判をいただくことがあります。例えばでございますが,私のオフィスを訪問して,「なぜ独占につながる談合や,カルテル,合併がいけないのか。みんな仲良くやっていこうということではないか」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
私の執務室の机の上には,あるメジャーリーグの野球球団の帽子と昨年のメジャーリーグオールスターの記念球を置いているのですが,そういった批判に対して私が申し上げているのは,「談合をやってはいけないのは野球のルールと同じですよ。野球のチーム同士が,このバッターにどう対応するのかを事前に話合いでやっていると,結局,見ている方が結果的に面白くないものを見せられることになりますし,それぞれの野球チームの力を高めようという努力をしなくなります。それでは,プロ野球の価値もどんどん低落していくことになるのでだめだ。」ということです。私は,競争の意義に関するこうした考えというのは,国際的にみても普遍的なものであると考えています。「競争環境が確保され,イノベーションが促進されることによって初めて,企業が力をつけ,経済が発展する」,このような競争政策・競争当局に課せられた重要な役割を改めてこのワークショップの議論を通じて各国で共有できることを期待しています。
おわりに
今回,デジタル化,グローバル化に絡めてたくさんのテーマを御用意いたしました。どのパネルでも議論する意義の大きいテーマが取り上げられています。モデレーターやパネリストだけでなく,フロアの参加者も含めた活発な議論を期待しております。また,皆さん,日本での滞在時間が限られているかもしれませんが,今の季節,東京は大変過ごしやすくなっております。ぜひ,皆さん,この機会に東京を,日本を楽しんでいってください。このワークショップが充実したものとなりますよう皆さんの御協力をお願いいたしまして,私の挨拶といたします。
御清聴ありがとうございました。
以上